第一私はこの人の顔がきらひだ。第二にこの人の田舎者のハイカラ趣味がきらひだ。
第三にこの人が、自分に適しない役を演じたのがきらひだ。女と心中したりする小説家は、
もう少し厳粛な風貌をしてゐなければならない。
私とて、作家にとつては、弱点だけが最大の強味となることぐらゐ知つてゐる。
しかし弱点をそのまま強味へもつてゆかうとする操作は、私には自己欺瞞に思われる。(中略)
太宰のもつてゐた性格的欠陥は、少なくともその半分が、冷水摩擦や器械体操や
規則的な生活で治される筈だつた。生活で解決すべきことに芸術を煩はしてはならないのだ。
いささか逆説を弄すると、治りたがらない病人などには本当の病人の資格がない。

三島由紀夫「小説家の休暇」より