>>360
「アイイイイイイ!!」
「!!」
「どう?木村」
「ダメだ、また『もんじゃ』だ」

酒井は慣れた手付きでもんじゃを手早くバケツにかき集め漉し器で固形と液体に分離する。
冷蔵庫の乏しい食材を確認しメニューを組み立て一人頷く。
固形部は数か所を切り込みを入れ血抜きをし、そこに爪を指し込み器用に骨と皮と肉を分離する。
血管などを取り除き香辛料と共に冷蔵庫で寝かせ臭みを取る。肉は手の熱で鮮度が落ちぬよう手早く処理した。
漉した液体分は静かな場所に置いて不純物を沈殿させ漉し器で取り除く。これを繰返して煮詰め味を調えると透明なスープが完成する。
モツや骨なども一切余さない。これらは弱火でしっかりと煮込んで付っきりで灰汁を取り除くと透き通ったゼラチンとなる。
後は食べる直前に先のスープを冷やしたものと合わせクルトンを浮かべれば冷製二層スープが完成する。
スープの支度が終われば再び肉の調理に戻る。
分厚い鉄のフライパンを二枚熱し、まず高温で一気に焼き目を付け、低温でミディアムレアに仕上げ、再び高温でフランベされる。
ビールと保存食しかない冷蔵庫に彩となる食材を探す。ミックスベジタブルも酒井シェフの手にかかれば赤緑黄の三色のピューレとなり
レバーから作ったソースと合わせ肉を彩り味にアクセントをつける。
付け合わせの温野菜も元は弁当用の冷凍茹で野菜だ
テーブルに白い布をかけキャンドルを立て、湯煎し適温にした皿に肉、氷水で冷やした皿にスープを盛りつけバゲットを添えナプキン、フォーク、ナイフ、赤ワインなどを並べていく。

幾度とないもんじゃ調理を繰り返し上達した酒井。
それは「母」と言うより「シェフ」であった。
「食べよ、木村」