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10月8日、ソニーは同社のPCシリーズ「VAIO」の秋冬モデル、4シリーズ17機種を発表した。今回の新
モデル最大の特徴は、沸騰する「タブレット需要」の取り込みだ。13機種をそろえたノートPCの中核とな
る「VAIO Fit」は、背面ラインを軸に画面が回転するマルチフリップヒンジの採用で、従来のノートPCの
使い心地を維持したまま、タブレット用途としても使用できる。

大幅な縮小が続くノートPC市場とは好対照をなす格好で、タブレット市場は目下急拡大している。全世
界のノートPC市場は昨年度の1.94億台から今2013年度は2割減となる1.56億台に、さらに14年度には
1.39億台へと続落する見通しだ(ソニー調べ)。一方、タブレット市場は、1.8億台(12年度)、2.3億台
(13年度見通し)と急増し、14年度も2.8億台への躍進が見込まれている(同)。ソニーは今回、新モデル
の大量投入で、この成長市場の本格開拓をもくろむ算段だ。

だが、ソニーのPC事業の足元は、きわめて厳しい。「(今期の売り上げ台数見通し)620万台の達成は
容易ではない」。同社VAIO&Mobile事業本部長の赤羽良介・業務執行役員SVP(シニア・バイス・プレ
ジデント)は見通しを語る。今回の秋冬モデルで挽回を狙うとするが、「国や地域によってはわれわれ
の想定を遙かに超える市場の厳しさがある」と赤羽SVPは説明した。

具体的には、タブレットに流れるロシア、スマートフォンに押されるインド、経済環境の悪化が響くメキシ
コといった、ソニーが一定の足場を持つマーケットで逆風にさらされている。「ウィンドウズXP」のサポート
切れに伴う置き換え需要も期待されるが、コンシューマー向けのVAIOでは、今のところは、「従来の見
通しよりも上振れている国はほとんどない」(同)のが実態だ。

ソニーは今期初750万台とした見通しを、8月時点で620万台へとすでに1度下方修正しているが、どうや
ら今期2度目の減額となる可能性が濃厚だ。実は同社のPC事業は前期においても、期初の1000万台
目標を、12年8月に920万台、11月に850万台、そして今年2月には760万台へと、3度にわたって切り下
げている。

仮に620万台を達成したとしても、「黒字化は厳しい」(赤羽SVP)という現状に、社内外から向けられる目
は厳しい。今年5月に開催された同社の経営方針説明会で示された「中核事業」から、ノートPCは外され
た。

「市場環境からして成長、収益のコアドライバーとなるのは難しい」(同)と判断されたためだ。そのため今
後の事業環境によっては、「もう一段の経費削減も考えていかなくてはならない」(同)状況にある。また
ソニーの議決権の6.3%を保有していると主張する、ヘッジファンドのサードポイントはより率直に、グルー
プ内では規模の小さいPC事業からの撤退を提案している。

国内外の個人ユーザーに、まだまだ根強いファン層を持つVAIO。タブレット市場の開拓で、その存在感を
示すことができるのか。それともPC不況の荒波に沈むのか。今回の新モデルは、その成否を占う格好の
試金石といえそうだ。