・スコットランドと北アイルランドに橋を架ける案が浮上中。ジョンソン首相が指示:イギリス・ブレグジットで:今井佐緒里 | 欧州研究者・物書き・編集者
今井佐緒里 | 欧州研究者・物書き・編集者

動画:https://youtu.be/cU_uwBL-KBM

「橋さえかければ、ブレグジットは解決だ」。

スコットランドから北アイルランドに橋を架ける案が浮上している。政府当局者が「この計画に関するペーパーを作成するよう、ジョンソン首相から求められている」と明らかにした。今週9月10日『チャンネル4ニュース』が伝えた。
同ニュースが見た文書では、財務省と運輸省が考えられる費用とリスクについて首相から助言を求められているという。リスクの中には、海中に潜んでいるかもしれない第二次世界大戦中の弾薬も含まれている。しかも、やや緊急の扱いだそうだ。
スコットランドのストランラーから北アイルランドのラーンまで、かかる費用は150億ポンド(約2兆円)。

2つの島の距離は最短で、約12マイル(約19.3キロ)だという。東京駅ー川崎くらいの距離である。
橋といえば、四国と本州を結ぶ3本の橋が思い浮かぶ。3本3ルートのうち、最長は神戸・鳴門ルートの全長89キロである。「なんだ、それなら19キロなんて楽勝じゃないか」と思ってしまうが、3本とも瀬戸内海の小さい島と島をつなぎながら架かっているのだ。
島のない部分の最長は「明石海峡大橋」。世界最長の吊り橋で本州と淡路島を結んでいて、全長は約4キロ(3,911メートル)である。19キロにはとても及ばない。

グーグル・アースで見た限りでは、スコットランドのストランラーから北アイルランドのラーンまでの間には島はない。
「橋さえかければ、ブレグジットは解決だ」。
同地の橋といえば、有名なのがフォース橋という世界遺産だ。エジンバラ近郊のフォース湾にかかるカンチレバー(片持ち梁)トラス橋で、強風に耐える設計になっているのが特徴だ。しかしこちらは、2530メートルしかない。

「橋さえあればブレグジット問題は解決」

実はこの案、今回初めて浮上したのではない。
ジョンソン氏が外務大臣だった昨年から討議されているという。
『ガーディアン』によると、ジョンソン氏は昨年、『サンデー・タイムズ』のインタビューでこの考えを明らかにしていた。この記事は、引退したオフショア技術者が書いた手紙の中の一文、「月に橋を架けるのと同じくらい実現可能だ」で終わっていた。
政府の広報担当者は、複数ある政府の定期委員会は、実行する可能性のある議題については、首相交代のキャンペーン期間中であっても継続審議していると語る。

運輸省は「この件に関する実際のペーパー」を作成しており、これは前運輸大臣だったクリス・グレイリング氏とDUP党(北アイルランドの強硬イギリス派)との対話でうまれたものだという。DUPは下院議会で保守派を支持して与党の一部となっている。
DUPは、橋がブレグジット問題の行き詰まりを打破できる、橋がアイルランド海にある境界の問題を取り除くことができる、と信じているというのだ。

その気持が痛いほどわかるのは、筆者が島国出身の日本人だからだろうか。

どうも大陸側の人間は「アイリッシュ海にバックストップの境界を引いたっていいじゃないか。どうせ海だから、検問があっても目立たないだろう」と考えているフシがあると思う。実際のところ検問は、本当に大陸と違って海は目立たない。いったいどれだけの日本人が、実際には行われている港の検問を目にしたことがあるだろうか。
でも橋さえできれば、両者は「陸続き」と似た感じになる。欧州連合(EU)に対しても「橋の所に検問所をつくるのか?!両者を分断するつもりか?!」と主張しやすくなるではないか。

アイルランドは、分断された東ドイツを引き合いに出して、「アイルランドを分断するな!」と言ってEU全体を味方につけた。それなら「橋さえあれば、北アイルランドだって『イギリスと分断するな!』と言える。同じ戦略で対抗できる」ということだろうと思う。
ジョンソン氏は、こういったハコモノを建てたくてたまらない政治家のようだ。特に橋が大好きに見える。
ロンドン市長時代、「ガーデンブリッジ」構想の支持に熱をあげていた。これはテムズ川に新たに橋を架け、浮かぶ庭のようにするという構想だった。

>>2

9/13(金) 9:00
https://news.yahoo.co.jp/byline/saorii/20190913-00142444/