ブロックチェーンで運営される仮想通貨

電子マネーであれば、利用者が十億人程度の規模のものは、すでに存在する。中国のアリペイもウィーチャットペイも、利用者数は10億人程度と言われている。巨大プラットフォーム企業がデジタル通貨に乗り出せば、この程度の規模のものは、実現できるのだ。

重要なのは、リブラは仮想通貨であって、電子マネーではないことだ。このため、電子マネーではできないことができる。

電子マネーは、簡単に言えば、銀行預金の引き落としを簡単に行なうための仕組みに過ぎない。従来の銀行システムの上に築かれているので、独自の経済圏を作ることはできない。しかも、受取り手になるには、審査を受けて承認を得る必要がある。また、受け取った電子マネーを支払いに用いることはできない。

それに対して、仮想通貨は、ブロックチェーンという独自の仕組みで運営される。誰でも審査なしに受け取り手になれる。受け取ったマネーを支払いに使える、つまり転々流通する。このため、独自の通貨圏を作ることができるのだ。また、インターネットでの少額支払いにも使える。

リブラは、ブロックチェーンで運営される。その信頼性は、Facebookなどの組織の信頼性とは別のものだ。

議会公聴会で証言に立ったデビッド・マーカス氏(Facebookのリブラ担当者)は、証言に先立って、「リブラの恩恵を受けるためにFacebookを信頼する必要はない」と言った。このことは、全く正しい。

リブラを信頼できるかどうかは、それを運営するブロックチェーンが信頼できるかどうかにかかっているのだ。

人々は、有名企業が参加する「リブラ協会」に注目している。協会はリブラの仕組みを決定はするが、リブラの信頼性は、これらの企業への信頼によるのではない。そしてこれが、ブロックチェーンで運営される仮想通貨が、電子マネーや伝統的な通貨と根本的に異なる点である。

仮想通貨であるビットコインは、既存の金融システムとは独立の通貨圏を形成することを期待された。しかし、投機によって価格が高騰したため、決済・送金用には使えなくなってしまった。

それに対して、リブラは、ドルなどに対して価値を安定化させるとしている。 これは、「ステイブルコイン」と言われるものである。さまざまな試みがなされてきたが、満足できるものはこれまで存在しない。

これに成功すれば、投機の対象となって手数料が高騰するようなことはないだろう。また、受け取り側としても、価値の下落を怖れる必要がない。

リブラは、ビットコインが行おうとして実現できなかったことを実現できる可能性を秘めている。このため、リブラは金融システムに革命的な変化をもたらす可能性がある。

もっとも、価値安定化は容易なことではない。ドル資産などの裏付け資産を準備するとしているが、そうした資産があるだけでは安定しない。例えば、投機で価格が暴騰しうる。価格安定化のためには売買を行なって発行量を調整する必要があるが、どのように行なうのか、まだはっきりしない。