<米中対立は望んでいない> 

中国の世界的影響力の高まりは、その経済的台頭だけでなく、トランプ政権率いるアメリカが、グローバルなリーダーシップを手控えていることに大いに関係がある。経済基準からみれば、最近になっても両国のギャップはそれほど狭まっていない。2015年以降、中国の国内総生産(GDP)成長率は7%を下回るレベルへ鈍化し、一方、最近の推定では、アメリカの成長率は3%を超えている。2015年以降、人民元の対ドル為替レートは10%低下したために、輸入品が高くなり、グローバル市場での通貨の強さも損なわれた。

しかし、大きく変化したものもある。「アメリカはリベラルな国際主義原則を主な基盤とする国際秩序を、外交的に、必要なら、軍事力を用いてでも促進していく」とみなす世界におけるイメージは大きく後退した。トランプ率いるアメリカは伝統的路線と決別し、自由貿易の価値に疑問を呈し、毒気の強い、何でもありのナショナリスト路線をとっている。核の兵器庫の近代化を試み、敵対国だけでなく、友好国にも強制策をとり、国際合意や国際組織から離脱している。2018年だけでみても、中距離核戦力(INF)全廃条約、イラン核合意、国連人権理事会からの離脱を表明している。

国際主義路線からの後退は一時的な間違いで、規範からの逸脱は短期的なものに終わるのか、それとも、この路線は新しい米外交のパラダイムでトランプ政権を超えて続くことになるのか。この点は、依然としてはっきりしない。しかし、トランプ主義の余波は世界に及び、すでに一部の諸国は、数年前には考えられなかった形で中国に接近している。日本の安倍晋三首相を例に考えてみよう。2018年10月に中国を公式訪問した安倍首相は、50を超える経済協調合意を締結し、それまでの敵対路線から協調路線へと対中関係を見直している。

一方、構造的な要因によって「米中というグローバルな超大国」と「その他」の間のギャップが広がり続けている。すでに、米中の軍事支出は他の諸国を寄せ付けないレベルに達している。2023年までに、アメリカの国防予算は8000億ドルに、中国のそれは3000億ドルに達する可能性がある。一方で「その他」をみると、800億ドル以上を国防に投入することを計画している国は存在しない。つまり、考えるべきは、米中二極体制の時代がやってくるかどうかではなく、それがどのようなものになるかだろう。

北京は、自由貿易を前提とする「リベラルな経済秩序」をもっとも重視している。この数十年における農業社会から世界の主要な経済パワーハウス、世界2位の経済大国への中国の経済的変貌は、輸出主導型の経済成長を基盤としていた。その後、ゆっくりと経済の価値連鎖の上流へと歩を進め、中国の輸出は高度な先端経済国家の製品と競合するまでになった。

かつて同様に現在も輸出が中国の生命線だ。輸出による貿易黒字とそれが作り出す雇用が、国内の社会的安定にとって死活的に重要なエンジンの役目を果たしている。今後10年で、このトレンドが変化していく兆しもない。貿易をめぐる米中間の緊張が高まっているとはいえ、2018年の中国の輸出は拡大している。アメリカの関税引き上げは中国に痛みを強いるかもしれないが、それで北京の基本的インセンティブが変化することも、グローバルな自由貿易への立場を見直すこともないだろう。

それどころか、中国の経済的、政治的成功にとって輸出が不可欠である以上、北京は、外国市場を獲得し、アクセスを維持していくために危険な賭けに打って出るかもしれない。広く宣伝された一帯一路構想の中核にもこの戦略概念が位置づけられている。中国はこの構想を通じて、遠くの市場と輸出ハブをつなぐ、遠大な陸と海のルートを整備したいと考えている。

2018年8月の時点で、70の国と組織が、一帯一路関連のプロジェクト契約に調印しており、契約数は今後さらに増えていくと考えられる。2017年の全国代表大会で、共産党は一帯一路構想へのコミットメントを党規約にさえ明記することを決めている。これは、党幹部がこのインフラプロジェクトに通常の外交政策を超えた価値を見出していることを意味する。

外国市場へのより大きなアクセスを確保する見返りに、外国製品を受け入れる国内市場をさらに開放していくことにも北京は前向きだ。実際、外国製品の輸出市場としての中国のポテンシャルを示すことを意図した2018年11月の上海での大がかりな輸入博覧会に間に合うように、北京は関税率を10・5%から7・8%へ引き下げている。