・「マスターベーションは悪いこと?」

授業も中盤に差し掛かった。生徒たちもすっかり心を開き、踏み込んだ質問や議論がクラス中に飛び交う。まるで女子会のような雰囲気だ。

「マスターベーションって、悪いこと?」
「ポルノ女優のように、陰毛は脱毛するべき?」

クリスティーヌも「敬意」と「愛」をこめて、真っすぐ生徒の目を見つめて丁寧に答える。まず、「陰毛の処理」についてだ。ある生徒が言う。「ポルノでは、たいてい女性が陰毛をキレイに脱毛しているわ。男子はポルノで見たことと実際のでき事が異なると、焦ってしまうのよ」。すると、他の生徒が「陰毛の脱毛は、相手への敬意の象徴よ。処理をしないと失礼だわ」と意見を述べる。

クリスティーヌは優しく答える。「脱毛をするのが当たり前ではないのよ。嫌ならばしなくてもいい。大事なのは、自分がしたいからするということ。ポルノで見た女性をマネする必要はないわ」

生徒の質問がオーラルセックスにまで進むと、クリスティーヌは「それは、大好きな人と一緒に、自分自身・相手の身体について発見をしていく行為。ポルノのように"絶対的"な工程ではないわ」と優しく教える。

では、マスターベーションはどうか。生徒たちからは、「ヤダ―!」と恥ずかしそうな反応が見られたが、クリスティーヌは真剣に話を続ける。

「マスターベーションは、身体の一部を触ること。みんな、自分の爪、耳を触るでしょう? 自分に快感を与えることに、『変』だなんて思わなくてもいい。癖になる必要はないけど、決して悪いことではないのよ」。

クリスチャンによると、性教育には「実践的な性行為」と、「セクシャリテ」という角度があるという。前者は、前戯やオーラルセックスなど性行為における実用的な内容。セクシャリテは、自分自身、他者との関係の築き方を学び、自信や人間性を磨いていくことだという。

・性教育は1年に3回の必須科目

フランスの学校で性教育が始まったのは1973年に遡る。しかし当時は選択科目で、「避妊と性病」にフォーカスした内容だった。だが、2001年に教育法に導入された現在の性教育では、1年に3回の必須科目となった。8歳頃から身体の発達や子どもができる仕組みなどを学び始め、中学で避妊などを教える。

性教育は医師やプランニング・ファミリアル(家族計画センター)の職員が講師として学校を訪問し行われる。家族計画センターとは、避妊、DV、強制結婚、性的嫌がらせなどの相談を受けることのできる「女性にとって心強い」非営利組織だ。前述のクリスティーヌは日々、センターに訪れる女性に助言をし、パリ市内の学校を訪問して性の指導を行っている。

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