しかもこのコンパクトは、ABにより、移民が移住先で、そこの国民と同様の権利を持てるよう応援している。しかもCで、移民は祖国に戻る権利も保持できるため、帰りたくなれば、帰郷もサポートしてもらえる。

案の定、この内容に危惧を覚え、同コンパクトを採択しないと宣言する国が出てきた。例えば、アメリカ、オーストラリア、ハンガリー、スイス。

一方ドイツでは、本件をほとんど誰も知らず、10月の末、お隣のオーストリアが採択拒否の声明を出したという報道で、ようやくその存在に気付いた始末。オーストリアの声明は下記の通りで、簡潔そのものだ。

「移住の権利という人権は、オーストリアの法的基盤においては未知である。そのような国際条約上存在しないカテゴリーを作り出すことも、合法と違法の移住に関する水増しも、拒否すべきものである」

このあとドイツでも、俄かにこのコンパクトを危険視する声が広がった。ところが驚いたことに、ドイツ政府はその声を、「ポピュリストたちによって、グローバルコンパクトに反対する空気作りが行なわれている」と非難したのである

・日本海に塀は作れない

ドイツ政府はここ数年、反対意見に議論で対決しようとはせず、すぐポピュリズムや反民主主義と決めつけて、それを押さえつけようとする傾向が目立つ。議論になると困るものはなるべく目につかないようにし、あるいは議会を回避して決めてしまうこともある。

人間の波は、一度、堰が切れれば止められなくなるのは、すでにEUでは証明済みだ。今、日増しにアメリカ国境に迫りつつある中米からの人の流れも、一つ間違えれば、いずれアメリカ合衆国だけでなく、北米、中米、南米すべてを混乱に巻き込むほどの威力を発揮するだろう。それをさらに「難民グローバルコンパクト」で応援しようというのは、かなり無謀な動きだ。

・いったい誰がそれを求めているのか? 何のために?

日本もあっという間に、この動きに飲み込まれる可能性は高い。日本では政治家も国民も、日本海は海が荒いので、朝鮮半島や大陸からのボート難民はそう簡単に来られないと高を括っているが、大きな船を提供する何者かが現れ、公海上で「遭難」している難民希望者を救助して日本まで運んでくれば済む話だ。

あるいは、日本の近くで難民を再び小舟に乗せ換えてSOSを発信すれば、自衛隊か海保が助けに行くだろう。それと同じことは、すでに何年も前から地中海で起こっており、各NGOの船が、中東やアフリカの難民を、シャトル便のようにイタリアやギリシャへピストン輸送してきた。

トランプ大統領はメキシコ国境に塀を作り、何と言われても中米の難民を阻止するつもりだろうが、日本は海に塀は作れない。それに、「人道」と言われれば受け入れ拒否などありえない。

ただ、ドイツのように、誰が何人入国して、どこにいるかわからなくなってしまっては困る。日本政府があらゆる状況をシミュレーションして、万が一の難民対策を準備してくれていることを願うばかりだ。