■政府の大胆なインフレ対策や仮想通貨導入も、誰にも信じてもらえない本当の危機

経済危機に陥っているベネズエラ政府が8月20日、ハイパーインフレの抑制を狙って、通貨単位を5ケタ切り下げるデノミを実施した。翌8月21日、市民は新通貨の流通に困惑し、ベネズエラの経済活動は麻痺状態になった。

その日、デノミ後の混乱を心配して数千軒の商店が休業し、多くの市民は仕事に行かず、家に引きこもった。

ベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領は政令で8月20日を銀行休業日とし、翌日に新通貨「ボリバル・ソベラノ」(Bs)が本格的に流通を始めた。米紙ワシントン・ポストによれば、旧通貨からゼロが5ケタ削除されることで、名目上は、インフレ率は自動的に約90%削減できる。首都カラカスでは、コーヒー1杯の値段が250万ボリバルから、25Bsに変わった。

だが市民が新紙幣を入手するのは容易ではない。カラカスにあるATMでは1度に10Bsしか引き出せず、引き出し上限額が設定されている、と英BBCは報じた。

反マドゥロ派は、抗議のためのゼネストを呼びかけた。野党指導者のアンドレス・ベラスケスは、6割近い商店が呼びかけに応じて店を閉めた、と主張した。「これは抗議の最初の一歩にすぎない。最終的には、無期限ストを呼びかける」と言う。だが、多くの企業や商店が店を閉めたのは、抗議のためというより、新通貨の導入に伴う混乱を避けるためだったとみられる。

■1日5000人が国外脱出

マドゥロ政権は財政破綻を回避するため、他にも対策を打ち出している。最低賃金を9月1日から34倍に引き上げる措置や、付加価値税の引き上げ、燃料補助金の削減などだ。

国産仮想通貨「ペトロ」とBsを連動させることも発表した。通貨の信用回復を狙うベネズエラ政府は、ペトロの価値について、豊富な埋蔵量を誇るベネズエラの原油を裏付けにしている、と説明する。だが専門家はその信憑性を疑問視する。米政府はすでにペトロでの取引を禁止しているし、仮想通貨のウェブサイト「ICOindex.com」はペトロを「詐欺」とみなしている。

深刻な経済危機のせいで、ベネズエラからは多くの国民が逃げ出している。国連の推定では、すでに230万人以上が脱出し、出国者は一日5000人前後に上る。その多くが、コロンビアやエクアドル、ブラジルなどの近隣諸国に向かった。

ベネズエラからの難民の大量流入で、現地住民との間に緊張も生まれている。ブラジルでは8月18日、国境付近に作られた複数の難民キャンプを地元住民が襲撃する事件が発生。レストランの店主をベネズエラ難民が激しく殴打した、という報道に怒った住民たちの仕業だった。ブラジル政府はベネズエラ難民を保護するため、軍隊や警察の出動を余儀なくされている。

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