内閣府は26日公表した「世界経済の潮流」で、主要国の民間債務が世界経済に与えるリスクを分析した。国内総生産(GDP)に対する債務残高の比率をみると、中国とカナダが高く「金融危機が起こりやすい可能性を示唆している」と警戒。中国をはじめ新興国企業の対外債務も増えており、急激な金利上昇などが世界経済を揺さぶりかねないとの見方を示した。

国際決済銀行(BIS)の統計をもとに、家計や企業の債務残高を調べた。2008年のリーマン・ショック以降のGDP比率をみると、主要国で二分される。日米やユーロ圏は低下し、中国やカナダ、スイスは上昇した。

家計部門に限ると、カナダやオーストラリアの債務が増加。金融緩和に伴う住宅ローン金利の低下や移民の増加が住宅価格を押し上げ、家計の借り入れが増えた。

企業部門では中国の債務増加が目立った。リーマン・ショック後の4兆元の景気対策で実施した大規模なインフラ投資などで債務が急拡大。企業債務の8割前後を国有企業が占めた。金属など生産体制が過剰な業種で負債が膨らんだ。

内閣府は、主要国の民間債務残高のGDP比率が過去の長期的な傾向を示す数値(トレンド)からどのくらい乖離(かいり)しているかを推計した。この分析手法を開発したBISは、トレンドから9ポイント超上振れすると「3年以内に金融危機が起こる可能性に注意すべきだ」としている。

直近の17年7〜9月時点でトレンドから9ポイント超上振れしていたのは中国(16.7ポイント)とカナダ(9.6ポイント)の2カ国。ただ、過剰債務を圧縮する取り組みなどで、両国とも16年をピークに比率が下がりつつある。内閣府は「世界的な金融危機の可能性が年々高まっている状況にはないが、中国やカナダの民間債務には留意が必要」とした。

日本は7.7ポイント上振れしたが、中国やカナダと状況が異なる。長期的に債務残高比率を下げてきたため、基準となるトレンドも低下。一方、足元の景気回復で企業が設備投資向けに債務を積み増す動きが出ており、トレンドから上振れする形となった。米国やユーロ圏はトレンドを下回った。

民間債務とともに膨らんだ資産価格が下落に転じると、家計や企業の債務返済は厳しくなる。この結果、消費や設備投資が一気に冷え込み、景気後退が深刻になりやすい。

内閣府は債務縮小や資産バブル崩壊が景気後退に与える影響も調べた。経済協力開発機構(OECD)加盟20カ国で1970年以降に起きた124回の景気後退を分析。31回は民間債務の縮小と住宅価格の下落を伴った。これらの後退局面での実質GDP減少率の中央値は2.1%。債務縮小や住宅価格下落と関係なかった34回の後退局面では0.9%の減少にとどまった。

2018年7月26日 16:00 日本経済新聞
https://r.nikkei.com/article/DGXMZO33438970W8A720C1EE8000?s=2