■組織刷新のため、生え抜きのアウトサイダーを起用
過去半世紀に何らかのチームが編み出した最も鮮烈な攻撃フォーメーションは何か。
米プロフットボールリーグ(NFL)グリーンベイ・パッカーズの「スウィープ」でもなければ、
バスケットボールの「トライアングル・オフェンス」でもない。スポーツには一切関係ない。

 それは、米海兵隊が誇る「ライフル分隊」だ。

 海兵隊は世界のどれほど過酷な紛争地に派遣されようとも、
師団、連隊、大隊、中隊、小隊からなる整然とした組織を作って活動する。
その末端を支えるのが13人編成の分隊で、メンバーは分隊長1人とライフル銃兵12人
(4人編成の「射撃班(ファイアチーム)」3つに分かれる)で構成される。

 元海兵隊大尉のネイト・フィック氏は、ライフル分隊を世界トップレベルの舞踏団になぞらえる。
「全員の動きが別の誰かの動きと連動している」。
同氏はアフガニスタンやイラクでの戦いを詳述したベストセラー「One Bullet Away」の著者だ。

 筆者は最近、米国防総省でロバート・ネラー海兵隊総司令官にインタビューを行った。
この象徴的な分隊について質問すると、開口一番、それは「神話のような伝承とステータス」をまとった存在だと答えた。
次に、多くの海兵隊員がいまだに理解できない疑問、つまりその最高のチームをなぜ放棄したのかを、
磨き上げた会議テーブルにひじを置いて語り始めた。

 白髪頭を短く刈り、長年の日焼けが染みついたネラー氏は、決して視線をそらさず、真剣な物腰を崩さない。
数々の決戦をものにした孤高の戦士集団を率いる紛れもない海兵隊大将だ。
だがそのよろいの下には、極めて風変わりなリーダーの資質が隠されている。
すなわち、組織内のアウトサイダーであることだ。

 同氏によると1975年の入隊から間もなく、最初の上官が彼を「『自分は納得できません』クラブの部長」と呼んだという。
階級が上がるにつれ、何事にも逆らう性質が一段と顕著になった。「比喩的な意味で、いつも火炎瓶を投げつけるタイプだった」


 このような「うるさ型」がトップに上り詰めることはまずない。途中であまりに大勢の人々の機嫌を損ねてしまうからだ。
だが、2015年に総司令官のポストがあいたとき、海兵隊は20年近くも作戦展開が固定化した状態が続いていた。
世界的な脅威がもたらす地理的変化に十分対応できておらず、女性に戦闘上の役割を与える課題も後回しになっていた。
そして何よりハイテクへの対応が急務だった。

 この種の苦境に陥った大企業は、人心一新のため外部から破壊的な最高経営責任者(CEO)を迎えようとするだろう。
伝統に縛られた要塞(ようさい)組織である海兵隊の場合、そうした選択肢はなかった。だがそこにロバート・ネラーがいた。
当局は「OK、ネラー。おまえは38年間もくすぶってきた。ここらで好きにやってみろ」と言わんばかりだったと同氏は語る。

 軍の指揮官はもう終わった戦争の準備をしていると批判されることが多い。だがネラー氏にはそんな心配はなかった。
3年もたたないうちにライフル銃から靴下まで海兵隊のあらゆる事柄を見直した。
さらに技術面の疑念を全て払拭(ふっしょく)すべく、タブレットやドローン、レーザー誘導兵器を導入した。
ハッカーに入隊ボーナスを支給するよう提案したこともある。

 海兵隊は「ピープル・ビジネス」であるとの信念を持つネラー氏は、何十回もタウンホール(対話集会)を開き、
期待にたがわぬ歯に衣(きぬ)着せぬ物言いで、組織内の風通しをよくすることに努めた。

 ライフル分隊を再検討する段階になると、海兵隊では実験やテストが繰り返し行われた。
だがネラー氏は徹底的に調べている時間はないと考えた。新たなハイテク機器がもたらす戦場の情報は、
途方もなく貴重なものだった。それを即座に収集し、分析する必要があった。
従来型の分隊編成では、戦闘への集中力を失うことなく情報活動を行う余裕がなかった。

https://jp.wsj.com/articles/SB12230827600627663439504584323661854047896
続く)