日本経済新聞:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO2208065010102017LB0000/

富山県南砺市はアニメを絡めた地域活性化に取り組む。
同市をモチーフにしたアニメ「サクラクエスト」内の架空都市と姉妹都市提携を締結。
来春から市民やファンらと共同で市内の桜の再生を目指す。
有識者を中心に幅広い人がアニメをきっかけにして、観光や地域振興を考える学会も発足。
活動を広げていく。


 サクラクエストは南砺市のアニメ制作会社ピーエーワークスの作品で、4月から9月末まで放映された。
東京で就職活動に苦戦する短大生の木春由乃が、ひょんなことから過疎化が進む間野山市の観光大使に就任。
廃校の利活用や街並み景観整備、祭りの復興、訪日外国人誘致など様々な課題に挑む様子を描いた。

「我々が抱える課題で間野山市が一生懸命頑張っている。
ともに地域・観光振興に取り組みたい」。
9日の調印式で南砺市の田中幹夫市長はこう語った。
具体策の1つが、市やピーエーワークスらが来春に立ち上げる桜の再生プロジェクト「桜ヶ池クエスト」だ。

作中で登場する池のモデルとなった南砺市の桜ヶ池は35年前に市民が約1千本の桜を植えた花見の名所だが、「今は半数以上が枯れたり傷んだりして花が咲かない」(同市の担当者)。
今後はファンや市民が協力して資金を集めたり、枯れ木の伐採や苗木の植樹をしたりし、アニメの主人公らが将来の目標とした「桜の王国」を実現する。
調印式を見た千葉県の男性(27)も「桜の再生に協力したい」と話した。

さらに、北海道大学観光学高等研究センターの山村高淑教授は調印式に絡む講演で、「間野山研究学会」を来春発足させると公表。
地方や肩書に関係なく、アニメをきっかけに地域・観光振興の課題や経験を議論できるネットワークにして、「日本各地の取り組みにつなげたい」と強調した。

南砺市はこれまでも、ピーエーワークスと連携してアニメを切り口にした取り組みを進めてきた。
アニメの登場人物の住民票を購入できるようにしたほか、市内でのみ後編が見られる短編アニメのスマートフォンアプリも配信。
若年層の誘客につなげている。

ただ、住民票の販売は累計1万2千枚強で、アプリのインストール数は1万3千弱。
年間350万人前後の同市の入り込み客数を考慮すると、効果は限定的と言える。

今回の桜の再生や学会設立は、地域活性化への真正面からの挑戦だ。
アニメファンの呼び込みだけでは成立せず、これまで以上に難しい取り組みとなる。
田中市長は「アニメへの市民の期待は高まっている」とみるが、その期待を住民の具体的な行動に移せるか。
そして、外からやってくるファンとも足並みをそろえた息の長い活動にできるかが問われる。