2023年(令和5年)1月12日 天声人語

 阪神・淡路大震災から、きょうで28年となる。亡くなった6434人で、女性が
男性より千人多かったことをご存じだろうか。子育てを終え、親の介護や看取
りをし、夫に先立たれた高齢女性が多く犠牲になった▼理由の一つは、少ない
年金で暮らす彼女たちが都市部の「古い住宅に身を寄せ合うようにして住んで
いた」(『災害女性学をつくる』)からだ。木造の文化住宅など、高度成長期
に建てられた耐震性の低い住居だ。大都市直下型地震で、死因の約8割は建物の
崩壊などによる「圧死」だった▼社会のひずみは生き延びた者にも犠牲を強い
た。そして、災害時に女性の視点が必要だという教訓を残した。いまでは世界
の常識となりつつある「被災地のジェンダー視点」だが、日本でそれが提起さ
れた発端は、この震災である▼避難所ではトイレが男女共有で行きづらく、夜
は暗くて怖い。間仕切りがなく、着替えや授乳の場所がない。離乳食や生理用
品が支援物資にない。当事者ならわかって当然だから、災害分野の主体には女
性が必要なのだ▼女性支援団体には性暴力の被害が報告された。震災を機に解
雇された約10万人の多くは、パートやアルバイトの女性だったとされる。夫の
親類を自宅に受け入れたら家事で「嫁」の役割を強いられた、いらだつ夫や恋
人に暴力を振るわれた、などの相談も▼弱者へのしわ寄せは非常時に増す。だ
からこそ平時から平等、多様な社会でありたい。私たちは、どれだけ進歩した
だろう。
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