産経抄 5月20日

 先日の毎日新聞に掲載された「ワクチンと竹ヤリ」と題したコラムには大いに共感した。読売、朝日、日経3紙に載って話題になった奇抜なカラー写真広告を取り上げていた。筆者の山田孝男記者は、毎日(産経も)をはずしたことを問題にしているわけでは、もちろんない。

 ▼広告は、戦時中の長刀(なぎなた)訓練の写真にウイルスをとりあわせ、挑発的なコピーが付いていた。「ワクチンもない。クスリもない。タケヤリで戦えというのか」。確かにワクチン接種は遅れている。ただ日本が誇る患者本位の医療制度は今も機能しており、けっして竹ヤリだけで戦っているわけではない、というのだ。

 ▼ワクチンだって各地に行き渡りつつある。打ち手不足を解消しようと、多くの歯科医が協力を申し出ている。インターネットや電話を使った予約の混乱を避ける工夫も進んできた。新潟県上越市では、集団接種を希望する高齢者に接種日時と会場をあらかじめ指定するやり方が、功を奏している。なんとか7月末までに高齢者の接種を完了しようと、政府と自治体は必死に戦っている。

 ▼東京と大阪のワクチン大規模接種センターの予約システムをめぐる検証記事は、そんな努力に水をさしたといえる。毎日とAERA dot.の記者が架空の番号を入力しても予約できたことを確認していた。

 ▼もともと防衛省と自治体の予約システムはつながっておらず、拙速なつくりは関係者も認めていた。重大な欠陥発見と、鬼の首をとったような報道には違和感を覚える。

 ▼記者は予約を取り消したそうだが、面白半分にマネをして放置する不届き者が続出したら一体どうなるのか。悪質ないたずらの種をまき散らす報道に、公益性の高さはとても感じられない。