5月2日(土)朝日新聞東京版朝刊オピニオン面・憲法を考える

憲法学者 蟻川恒正   その国の7年半

さる国のお伽噺である。

詐欺師Aが、その国の政治を取り仕切る最高責任者を名乗るXに不埒な知恵を
吹き込んだ。「この国の法ではできないことになっていることも、法を変更すること
なく、できるようにしてみせます」

それを聞いて、Xは喜んだ。それが本当なら、この国の政治は自分の思いのままに
なると考えたからである。だが、そんな夢のようなことが本当に可能なのか、自分では
判断がつかなかったXは、側近のBに、そんなことが本当にできるのかと尋ねてみた。
Bは、そんな夢のようなことができるのか、本当はわからなかったが、できないと
言えばXの機嫌を損ねると思い、よく考えもせず、「できますとも」と答えた。

それを聞いてXは喜んだ。だが、実は小心なXは、もっと確かな保証がほしいと考えた。
そこで今度は、Xの「配下」の者ではあるが、この国の法をつかさどる機関の責任者で
あるCに、保証はできるかと尋ねてみた。Cは、そんなことができるはずはないと
考えたが、保証をしなければXの機嫌を損ねると思い、Bと全く同じように答えた。
「できますとも」

こうしてXは、法が妨げとなって自分の思い通りにならないことがあると、Aの甘言に
従い、また、Bに背中を押されて、理の通らない法解釈をひねり出しては、その
法解釈にCのお墨付きを得て、難局をしのいできた。

(続く)