産経抄 10月14日

 多くの死傷者、行方不明者が出ている。千曲川や多摩川など各地の河川が氾濫した。土砂崩れや鉄路、道路が寸断された地域もある。
過去最強級の台風19号に備えはしたが大きな被害が出た。引き続き救助、復旧活動に全力をあげ一人でも多くの命を守ることに万全を期したい。

 ▼防災に多くの提言を残す物理学者の寺田寅彦は、歴史に繰り返される自然災害について「科学的宿命」とも考えられると書いている。
とくに台風の道筋に、長い島弧が延びる日本の国土は「たいていの台風はひっかかる」とし、頻発する地震や気象など自然災害に根気よく対処してきた歴史や国民性に触れている(「災難雑考」『天災と国防』収録・講談社学術文庫)。

 ▼同時に自然災害への対処の難しさも説いて、一つの心得をあげている。自然「現象」は「人間の力でどうにもならなくても」、自然現象による「災害」は「注意次第でどんなにでも軽減されうる可能性がある」と。

 ▼昭和9年に書かれた表題作の「天災と国防」では「文明が進むほど天災による損害の程度も累進する傾向がある」と指摘している。
台風などの気象災害は近年激しさを増し、思わぬ被害が出ているのは周知の通りだ。時を経て重さが増す警鐘である。自然への畏敬とともに、警戒と対策を怠れない。

 ▼東日本大震災から8年を機に今春訪れた被災地で聞いた話も改めて紹介したい。震災前から防災教育にかかわった岩手県釜石市の中学校の校長が語っていたことだ。

 ▼津波から児童生徒が無事避難し「奇跡」といわれたが「日頃からの備え」があった。生活や教育を通し「命の尊さを十分知っていればマニュアルに左右されず自然と必要な行動につながる」との言葉は重いものだ。