7月3日(水)朝日新聞東京版朝刊文化面・終わりと始まり

池澤夏樹(作家)    映画「主戦場」  慰安婦語る口調 言葉より雄弁

すべて試合の観戦はおもしろい。映画「主戦場」の場合はサッカーや囲碁ではなく、論戦。

従軍慰安婦問題というテーマを巡って、右軍と左軍双方の論客が登場、それぞれ自説を
展開する。

第二次世界大戦の時、朝鮮から多くの女性がアジア各地の戦場に送りだされた。
あるいは自ら渡った。日本兵たちを相手に性行為をするのが彼女たちの職務だった。
これが強制であったか否か、実態はいかなるものだったか、これが議論の軸だ。

論者が直接対決する形のディベートではない。インタビュアーが一人一人を訪れて
話を聞き、それを争点ごとに並置して編集、一つの流れを作る。ドキュメンタリーの
手法として新しいものだ。

争点は――
強制連行はあったか?
軍や国の関与はあったか?
二十万人という数字の根拠は?
売春婦か性奴隷か?
歴史教育の場で教えるべきか?
慰安婦の像は撤去すべきか?
などなど。

監督のミキ・デザキは日系のアメリカ人。この問題については第三者の立場にある。
だから右軍とも左軍とも積極的にインタビューに応じたのだろう。持論を聞いてほしい
と思ったのだろう。

(続く)