>>180
(続き)

今回、呼ばれた有識者の面々に学者はいても詩人たちは一人もいなかった。

詩人は言葉の実地の専門家、こういう場面でこそ意見を問うべき相手である。
コピーライターや書家もまた同じ。

具体的に名を挙げれば、石川九楊、糸井重里、岡野弘彦、高橋睦郎、谷川俊太郎、
長谷川櫂、馬場あき子。こういう人たちが参画すべきだったが彼らに声は
掛からなかった。理由は明らかで、本気の議論になっては勧進元である首相官邸が
困るからだ。

つまりは下賜する側、恩着せがましく渡す側の事情である。政治経済の先行きが
暗ければ、あとはお祭りしかない。改元とか、アメリカ大統領のおもてなしとか、
先々はオリンピック・パラリンピックとか。新札デザインの先行発表とか。

私見を述べれば、候補六点の中では「万和(ばんな)」がよかった。

漢字は横に通った一画があると安定する。「大正」と「平成」がまさにそれだ
(「平」は下半身が弱いが「成」の末広がりがしっかりそれを支えていた)。

響きとしてはbの破裂音が元気がある。「まんわ」ではなく「ばんな」と読むと
いわば音韻としてキャラが立つ(漢籍由来での漢音なのだが)。ぼくが歴代の元号の
中でいちばん美しいと思うのは「天平」だが、これも「てんぴょう」と読むところが
いい(というのは井上靖に由来するロマンティシズムか)。

(続く)