6月5日(水)朝日新聞東京版朝刊文化面・後藤正文の朝からロック

占領された正面升席

大相撲夏場所千秋楽。正面最前列、16人分の升席を潰し、椅子に腰掛けて観戦する
トランプ米大統領夫妻と安倍晋三首相夫妻の映像に腹が立った。
僕の趣味は大相撲観戦だ。何度もチケットを購入しているが、正面升席のチケットを
取るのは難しい。
日曜日に行われる千秋楽となると、すべての席種が人気で、正面の最前列で観戦する
自分の姿など想像もできない。
チケットの販売日に相撲茶屋に連絡して、月曜日や火曜日といった平日の升席の購入
を申し込み、運が良ければ東西の良席を取ることが僕にもできたが、それでも4列目
くらいが、これまでで一番土俵に近い席だったと思う。
この日の警備のために、多くの正面升席が一般には販売されないという記事を読んだ。
とてもむなしい気持ちになった。
八百長問題などで、数年前までチケットが売れない時期があった。客席はガラガラで
盛り上がりに欠けたが、大相撲が苦境に立たされたときも、ファンの多くは熱心に
応援を続けた。
力士たちの活躍によって、大相撲は人気を取り戻した。昨今は満員御礼が続いていて
うれしい。
けれども、この日の光景に、自分と大相撲のこれまでのつながりの、大切な何かを
踏みつけられたような気分になった。
同じように感じている人は、少なくないと思う。

(ミュージシャン)