・・・受精卵を子宮に着床させる前の遺伝子診断技術の進歩にともなって、診断に対する要望と責任も高まってきた。
だが、このような遺伝子診断の行き着く先には、親が子どもをSF映画『ガタカ』のようにデザインしてしまう危険性がある、と生命倫理学者たちは警告している。

 「この問題の重大さに比べたら、クローン人間をめぐる議論すら余興みたいなものだ。
クローニングの議論に膨大な時間が費やされているが、遺伝学が甚大に厳しい選択を突きつけているのは、クローニング分野ではない」

と、ペンシルベニア大学生命倫理センターの責任者、アーサー・カプラン氏は述べている。

 カプラン氏によると、クローニングを実行したいと希望する人はほとんどいないという。ところが、遺伝子を調べることで、病気の可能性を除去するだけでなく子どもを自分たちの好きなようにデザインしたい親なら、大勢いるのだ。

 「このままでは、子孫を自らデザインするための道が開けてしまう」

とカプラン氏。 現在、ヒトゲノム計画はほぼ完了し、探究の主眼は、数千種に及ぶ診断可能な遺伝形質の発見に向かっている。

 「こうして、社会全体が今まであまり真剣に考えてこなかった特異な問題が浮上してきた」

と語るのは、米国法律・医学・倫理協会の専務理事、ベンジャミン・モールトン博士だ。 社会的な要求が大きくなれば、精子と卵子を提供しているサービス機関は、遺伝子診断に関して、より大きな責任を負うようになるだろう。


・・・しかし専門家によると、遺伝子病のあらゆる可能性をチェックするのは、コストの面で不可能だという。

 「新しい検査が登場するたびに、費用に見合うほどの頻度で発症する病気かどうかを評価しなければならない。
診断費用は時として非常に高額になるし、正直なところ、私たちは誰もが致死遺伝子を生まれつき持っている」

とザイテックスは述べている。遺伝子診断は高額で、近い将来も保険でカバーされる見込みが薄いため、貧しい人たちは受精卵の遺伝的欠陥が発見できないことになる、と倫理学者たちは懸念を表明している。

 「貧乏人は恐ろしい遺伝子病を持った子どもを産むかもしれないのに、金持ちだけはそれを回避できるなんて不公平だ」