5月10日(木)朝日新聞東京版朝刊オピニオン面・耕論「揺らぐ言論の土台」

スマイリーキクチ(お笑いタレント)  言葉が凶器に 自覚しよう

1999年に突然、ネット掲示板で、僕が女子高生コンクリート詰め殺人の犯人だった
というデマが広がりました。

犯人と同じ東京都足立区出身で、年が近いだけ。掲示板なんて誰も信じないだろうと
思っていましたが、信じた人が「人殺し死ね」などと暴力的な言葉で書き込んでいく。
「過去のことは許して下さい」と僕になりすました書き込みもありました。出演番組や
CMのスポンサーにまで「殺人犯を出すな」と苦情が入り、仕事が減りました。命の
危険を感じ、ストレスで神経性胃炎になりました。

男女十数人が脅迫や名誉棄損の容疑で検挙されました。北海道から大分までの17〜
46歳。高校生、会社経営者、有名大学の職員……。会社の情報管理をする立場の
人もいました。全員面識はなく、外見は普通の人でした。ネットに接しただけで、
こんなに豹変するのかと怖くなりました。

大半が「正義感からやった」と供述していると警察官から聞きました。しかし、匿名で
無関係の人をののしることは正義でしょうか。正義と暴力は紙一重なのに。捜査が
進むと、「ネットにだまされた」「離婚してつらかった」など、自分を正当化し始めた
そうです。「みんなやっている」とも。言葉が犯罪になるという意識がない。問題の
根幹はここにあります。

(続く)