【産経抄】横綱日馬富士が漏らした謎の一言 11月16日

 元横綱の初代若乃花、故花田勝治さんは、酒豪で知られた。十両時代、北海道での巡業中、若い衆を引き連れて小料理屋でどんちゃん騒ぎをやった。
勘定の段になって懐が寂しい。ふと、横綱東富士の顔が浮かび、「金を借りてこい」と使いを出してしまった。

 ▼翌日、横綱に対する無礼な態度が大問題になっていた。協会の幹部の間では、「クビにしろ」との強硬意見も出た。「初めてだから、許してやれ」。
首がつながったのは、横綱羽黒山の一言のおかげである。2年後に初金星を飾った相手は、その「恩人」だった(『土俵に生きて』)。

 ▼同じく巡業中の酒の席での失態とはいえ、「許してやれ」の声は上がりそうにない。後輩力士をビール瓶で殴打したのは、「品格」が常に求められる横綱である。
モンゴル勢力士の活躍を早くから見通していた花田さんにとっても、信じられない事態であろう。しかも重傷を負った平幕貴ノ岩は、甥(おい)にあたる貴乃花親方の弟子である。

 ▼日馬富士に厳しい処分が下されるのは当然だが、それだけではすまされない。先月26日に起きた事件には、謎が多すぎる。
貴乃花親方は3日後に、警察に被害届を提出している。では日本相撲協会への報告はどうなっていたのか。

 ▼何事もなかったかのように、九州場所は始まった。2日目になって、ようやく初日から休場している貴ノ岩の診断書が公表された。その際も、親方は「本人の体調が悪いということ」と説明しただけだ。

 ▼現場に居合わせていた横綱白鵬らモンゴル勢力士は沈黙を守っている。14日の朝になってようやく事件が発覚した。「怖いな」。何より不可解なのは、スポーツニッポン新聞のスクープ記事を見せられた日馬富士が漏らした一言である。

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