12月19日(火)朝日新聞東京版朝刊経済面・波聞風問

堀篭俊材(編集委員)   人手不足 「バブル期超え」といわれても

一風変わった授業だった。「電通事件では、東大卒の女の子が過労自殺に追い詰められた。
会社って、こわいところなんです」。介護スタッフの瀬戸瑞恵さん(40)が高校生たちに
話しかけた。

埼玉県立与野高校で先月30日、高校3年生約360人を集め、「人権教育」の授業が
あった。大学に進んだ教え子が定期試験の期間中、アルバイトの当番を無理やり入れられて
困っている。そう聞いた同校の大石智章先生(59)たちが企画した。

「社会に将来でたとき、ブラック企業から身を守まもる術を子どもたちに知ってほしい」と
大石さんは話す。

この日講師をつとめた瀬戸さんには、連載中の「平成経済」企画の取材で会った。
バブル経済が崩壊し、「フリーター」という言葉がまだもてはやされたころ、17歳で
高校を中退。コンビニや居酒屋でバイトしたのをはじめ、派遣や契約社員として10を
こえる職場を経験してきた。

中学時代、正社員同士で恋愛するトレンディードラマがはやっていた。将来の自分を
重ねた瀬戸さんだが、非正社員の現実は違った。勤務先では「もっとがんばらないと、
正社員に推薦できない」「いうことが聞けないのなら辞めていい」といわれ、正社員
との間の厚い壁に何度もぶちあたった。

正社員で勤めたパチンコ店を一昨年辞めさせられたあと、瀬戸さんは訪問介護とフリーの
デザイナーとして仕事を再開した。「自分の経験が役だてば」と大学や高校で壇上にたち、
「身を守るために法律を知ろう」と訴える。

  (続く)