【産経抄】「相対性理論を実行中」といえば恋愛中 10月5日

 安倍晋三首相は平成18年9月に行った所信表明演説の中で、物理学者、アインシュタイン博士の言葉を引用している。「日本人が本来もっていた、個人に必要な謙虚さと質素さ、日本人の純粋で静かな心、それらのすべてを純粋に保って、忘れずにいてほしい」。

 ▼大正11(1922)年に来日した際、日本人の印象を雑誌に寄稿したものだ。もっとも、天才科学者を迎える日本人の熱狂ぶりは、「静かな心」とはかけ離れていた。
なにしろ博士が発表した相対性理論は物理学に革命を起こし、日本に向かう途中でノーベル物理学賞を受賞したばかりである。

 ▼今年同じ賞に輝いたのは、宇宙から届く「重力波」を世界で初めて捉えた3人の米国人学者だった。重力波とは、重い天体が動くとき、その重力の影響で生じた空間のゆがみが、さざ波のように伝わる現象である。

 ▼相対性理論でその存在を予言していた博士の正しさが、あらためて証明された。といっても3人だけの功績ではない。博士の愛した日本からも、多くの科学者が協力してきた。

 ▼95年前の博士の来日では、相対性理論の難解さも大いに話題となった。予算決議の閣議の席上で、大臣たちが「分かる」「いや、分からぬ」の論争を大まじめに繰り広げたと、新聞は報じている。
「相対」を「あいたい」と読めば、当事者が向かい合うという意味になる。若い男女は「恋愛中」を「相対性理論を実行中」と言い換えて、面白がった。

 ▼幸い現在では、相対性理論や重力波について、素人にも分かりやすく書かれた解説書が書店に並んでいる。アインシュタインの理論を生かし、世界中の科学者がどのように宇宙の謎に挑み、解明してきたのか。確かめる夜長があっていい。

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