【産経抄】とりあえずカレンダーに印を入れる 9月29日

 中学2年の1学期の終業式の日。学校から帰ると、自宅マンションのドアには「差し押さえ」と書かれたテープが貼られていた。やがて父親が帰ってきて宣言する。

 ▼「ご覧の通り、まことに残念ではございますが、家のほうには入れなくなりました…これからは各々頑張って生きてください。…解散!」。
お笑い芸人の田村裕さんによるベストセラー『ホームレス中学生』の家族解散の場面である。田村さんは、父親の言葉が「全く理解できなかった」と振り返る。

 ▼民進党の前原誠司代表は昨日、「解党」を正式に表明した。所属議員たちは理解できたのだろうか。少なくとも支持者には理解不能だろう。田村家と違って、民進党は金に困っているわけではない。選挙に備えた資金は100億円を超えているという。

 ▼もっとも、いざ衆院解散を迎えると、とても勝ち目はない。そこで小池百合子東京都知事が代表を務める国政新党「希望の党」と合流しようというのだ。安倍政権を打倒できれば、それでよし。政策もへったくれもない。

 ▼そもそも合流後の新党は、誰を首相に指名するのか。小池氏は、都知事のままでは首相になれない。まさか築地市場の豊洲移転をはじめ問題山積みの都政をほっぽらかして、衆院選に出馬するつもりなのか。
政界の一寸先は闇、どころではない。誰も見たことがない異形の政治の風景が現れようとしている。

 ▼「希望学」を提唱する玄田有史東大教授らは、平成18年から岩手県釜石市を調査してきた。東日本大震災後、現地に持参してもっとも喜ばれたのは、カレンダーである。
苦しい生活のなかで、希望を書き入れていく(『〈持ち場〉の希望学』)。とりあえず、投開票日の22日に印を入れるしかない。

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