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言動を否定しない

 幻聴や妄想の内容は、周囲の人にとっては非現実的ですが、患者さん本人にとっては現実の問題です。
自分で否定し、打ち消そうとしても出来ないのです。起こっている事実に追い詰められ、強い緊張や不安をかかえているのに、周囲の人にはわかってもらえない、受け入れてくれない、と孤独に陥ってしまいます。
たとえば、患者さんが「家の前に停まっている黒い車は、私を監視するために停まっている」と言えば、家族の者は「そんなわけないでしょう。なんでそんな風に考えるの!」「バカなこと言わないで!」と、つい言ってしまいます。
そう言えば言うほど、自分の行動は全部監視されている、と患者さんは主張し続けます。そんなことは誤りだと、いくら論理立てて説明し、説得したとしても、患者さんは自分なりに筋道をたてて納得しているので、受け入れようとしません。

 この患者さんの思い込みや妄想の背景には、強い不安感があります。こんな時、最も大切なことは、頭ごなしに否定したり、説得しないことです。まずは、患者さんの言い分をそのまま受け止め、共感してあげることです。
「そう、それは不安でしょう。でも、ここにいれば絶対に大丈夫」「私たちはあなたの味方。守ってあげるから、ゆっくり休んで」と声をかけてあげれば、患者さんは何よりの助けとなるのです。
また、話を聞く際には、「そうなの? どんなことがあるの?」といったように、妄想を具体的に説明させるような質問は、控えたほうがよいでしょう。説明させることで、かえって不安を煽ることにもなります。