吉田へ
この手紙をもって、僕の歯科医としての最後の仕事とする。 まず、僕の病態を解明するために、九州歯科大学の教授に病理解剖をお願いしたい。
以下に、歯科治療についての愚見を述べる。 歯の根治を考える際、第一選択はあくまで神経を残すことであるという考えは今も変わらない。
しかしながら、現実には僕自身の場合がそうであるように、発見した時点でC3やC4にいたる症例がしばしば見受けられる。
その場合には、抜随による根管治療が必要となるが、これは歯の保全と言う観点から考えて極力避けるべきだ。
これからの日本の歯科治療の飛躍は、カリソルブ治療等のミニマルインターベンションの考えの浸透にかかっている。 僕は、君がその一翼を担える数少ない歯科医であると信じている。
能力を持った者には、それを正しく行使する責務がある。 君には歯科治療の発展に挑んでもらいたい。
遠くない未来に、虫歯による歯の喪失が、この世からなくなることを信じている。 ひいては、僕の屍を病理解剖の後、君の研究材料の一石として役立てて欲しい。
屍は生ける師なり。
なお、自ら歯科治療の第一線にある者が早期発見できず、手術不能の虫歯で死すことを、心より恥じる。
岡田