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アンパンマンは
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0001ななしじゃにー
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2018/01/08(月) 21:21:46.76ID:vpSycgI7O
Kill me soon
0101ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:25:56.86ID:2aDn8M2J0
僕はエムペドクレスの伝を読み、みづから神としたい欲望の如何に古いものかを感じた。
0102ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:26:12.58ID:2aDn8M2J0
僕の手記は意識してゐる限り、みづから神としないものである。
0103ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:26:28.31ID:2aDn8M2J0
いや、みづから大凡下の一人としてゐるものである。
0104ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:26:44.01ID:2aDn8M2J0
君はあの菩提樹の下に「エトナのエムペドクレス」を論じ合つた二十年前を覚えてゐるであらう。
0105ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:26:59.75ID:2aDn8M2J0
僕はあの時代にはみづから神にしたい一人だつた。
0107ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:27:31.14ID:2aDn8M2J0
或小官吏だつた彼の父はそのためにかれを勘当しようとした。
0109ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:28:02.53ID:2aDn8M2J0
それは彼の情熱が烈しかつたためでもあり、又一つには彼の友だちが彼を激励したためでもあつた。
0110ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:28:18.27ID:2aDn8M2J0
彼等は或団体をつくり、十ペエジばかりのパンフレツトを出したり、演説会を開いたりしてゐた。
0111ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:28:33.98ID:2aDn8M2J0
彼も勿論彼等の会合へ絶えず顔を出した上、時々そのパンフレツトへ彼の論文を発表した。
0112ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:28:49.68ID:2aDn8M2J0
彼の論文は彼等以外に誰も余り読まないらしかつた。
0114ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:29:21.01ID:2aDn8M2J0
「リイプクネヒトを憶ふ」の一篇に多少の自信を抱いてゐた。
0115ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:29:36.61ID:2aDn8M2J0
それは緻密な思索はないにしても、詩的な情熱に富んだものだつた。
0116ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:29:52.32ID:2aDn8M2J0
そのうちに彼は学校を出、或雑誌社へ勤めることになつた。
0117ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:30:07.93ID:2aDn8M2J0
けれども彼等の会合へ顔を出すことは怠らなかつた。
0118ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:30:23.65ID:2aDn8M2J0
彼等は相変らず熱心に彼等の問題を論じ合つてゐた。
0119ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:30:39.34ID:2aDn8M2J0
のみならず地下水の石を鑿つやうにじりじり実行へも移らうとしてゐた。
0120ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:30:55.06ID:2aDn8M2J0
彼の父も今となつては彼に干渉を加へなかつた。
0121ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:31:10.77ID:2aDn8M2J0
彼は或女と結婚し、小さい家に住むやうになつた。
0123ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:31:42.21ID:2aDn8M2J0
が、彼は不満どころか、可なり幸福に感じてゐた。
0125ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:32:13.54ID:2aDn8M2J0
それ等は彼の生活に何か今まで感じなかつた或親しみを与へたのだつた。
0126ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:32:29.26ID:2aDn8M2J0
彼は家庭を持つたために、一つには又寸刻を争ふ勤め先の仕事に追はれたために、いつか彼等の会合へ顔を出すのを怠るやうになつた。
0127ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:32:44.91ID:2aDn8M2J0
しかし彼の情熱は決して衰へた訣ではなかつた。
0128ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:33:00.51ID:2aDn8M2J0
少くとも彼は現在の彼も決して数年以前の彼と変らないことを信じてゐた。
0129ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:33:16.23ID:2aDn8M2J0
彼の同志は彼自身のやうには考へなかつた。
0130ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:33:31.94ID:2aDn8M2J0
殊に彼等の団体へ新にはひつて来た青年たちは彼の怠惰を非難するのに少しも遠慮を加へなかつた。
0131ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:33:47.67ID:2aDn8M2J0
それは勿論いつの間にか一層彼等の会合から彼を遠ざけずには措かなかつた。
0132ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:34:03.27ID:2aDn8M2J0
そこへ彼は父親になり、愈家庭に親しみ出した。
0133ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:34:18.99ID:2aDn8M2J0
けれども彼の情熱はやはり社会主義に向つてゐた。
0134ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:34:34.70ID:2aDn8M2J0
彼は夜更の電燈の下に彼の勉強を怠らなかつた。
0135ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:34:50.40ID:2aDn8M2J0
同時に又彼が以前書いた十何篇かの論文には、――
0136ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:35:06.11ID:2aDn8M2J0
就中「リイプクネヒトを憶ふ」の一篇にはだんだん物足らなさを感じ出した。
0138ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:35:37.56ID:2aDn8M2J0
彼はもう彼等には非難するのにも足らないものだつた。
0140ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:36:09.01ID:2aDn8M2J0
或は大体彼に近い何人かの人々を残したまま、著々と仕事を進めて行つた。
0141ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:36:24.63ID:2aDn8M2J0
彼は旧友に会ふたびに今更のやうに愚痴をこぼしたりしてゐた。
0142ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:36:40.34ID:2aDn8M2J0
が、実は彼自身もいつかただ俗人の平和に満足してゐたのに違ひなかつた。
0143ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:36:56.04ID:2aDn8M2J0
それから何年かたつた後、彼は或会社に勤め、重役たちの信用を得るやうになつた。
0144ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:37:11.65ID:2aDn8M2J0
従つて今では以前よりも兎も角大きい家に住み、何人かの子供を育てるやうになつた。
0146ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:37:43.07ID:2aDn8M2J0
そのどこにあるかといふことは神の知るばかりかも知れなかつた。
0147ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:37:59.02ID:2aDn8M2J0
彼は時々籐椅子により、一本の葉巻を楽しみながら、彼の青年時代を思ひ出した。
0148ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:38:14.73ID:2aDn8M2J0
それは妙に彼の心を憂鬱にすることもない訣ではなかつた。
0149ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:38:30.33ID:2aDn8M2J0
けれども東洋の「あきらめ」はいつも彼を救ひ出すのだつた。
0151ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:39:01.55ID:2aDn8M2J0
が、彼の「リイプクネヒトを憶ふ」は或青年を動かしてゐた。
0152ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:39:17.27ID:2aDn8M2J0
それは株に手を出した挙句、親譲りの財産を失つた大阪の或青年だつた。
0153ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:39:33.00ID:2aDn8M2J0
その青年は彼の論文を読み、それを機縁に社会主義者になつた。
0154ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:39:48.72ID:2aDn8M2J0
が、勿論そんなことは彼には全然わからなかつた。
0155ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:40:04.33ID:2aDn8M2J0
彼は今でも籐椅子により、一本の葉巻を楽しみながら、彼の青年時代を思ひ出してゐる、人間的に、恐らくは余りに人間的に。
0156ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:40:20.05ID:2aDn8M2J0
立てきった障子にはうららかな日の光がさして、嵯峨たる老木の梅の影が、何間かの明みを、右の端から左の端まで画の如く鮮に領している。
0157ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:40:35.65ID:2aDn8M2J0
元浅野内匠頭家来、当時細川家に御預り中の大石内蔵助良雄は、その障子を後にして、端然と膝を重ねたまま、さっきから書見に余念がない。
0158ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:40:51.27ID:2aDn8M2J0
書物は恐らく、細川家の家臣の一人が借してくれた三国誌の中の一冊であろう。
0159ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:41:06.96ID:2aDn8M2J0
九人一つ座敷にいる中で、片岡源五右衛門は、今し方厠へ立った。
0160ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:41:22.60ID:2aDn8M2J0
早水藤左衛門は、下の間へ話しに行って、未にここへ帰らない。
0161ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:41:38.31ID:2aDn8M2J0
あとには、吉田忠左衛門、原惣右衛門、間瀬久太夫、小野寺十内、堀部弥兵衛、間喜兵衛の六人が、障子にさしている日影も忘れたように、あるいは書見に耽ったり、あるいは消息を認めたりしている。
0162ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:41:54.05ID:2aDn8M2J0
その六人が六人とも、五十歳以上の老人ばかり揃っていたせいか、まだ春の浅い座敷の中は、肌寒いばかりにもの静である。
0163ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:42:09.74ID:2aDn8M2J0
時たま、しわぶきの声をさせるものがあっても、それは、かすかに漂っている墨の匂を動かすほどの音さえ立てない。
0164ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:42:25.35ID:2aDn8M2J0
内蔵助は、ふと眼を三国誌からはなして、遠い所を見るような眼をしながら、静に手を傍の火鉢の上にかざした。
0165ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:42:41.07ID:2aDn8M2J0
金網をかけた火鉢の中には、いけてある炭の底に、うつくしい赤いものが、かんがりと灰を照らしている。
0166ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:42:56.79ID:2aDn8M2J0
その火気を感じると、内蔵助の心には、安らかな満足の情が、今更のようにあふれて来た。
0167ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:43:12.37ID:2aDn8M2J0
丁度、去年の極月十五日に、亡君の讐を復して、泉岳寺へ引上げた時、彼自ら「あらたのし思いははるる身はすつる、うきよの月にかかる雲なし」と詠じた、その時の満足が帰って来たのである。
0168ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:43:27.98ID:2aDn8M2J0
赤穂の城を退去して以来、二年に近い月日を、如何に彼は焦慮と画策との中に、費した事であろう。
0169ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:43:43.69ID:2aDn8M2J0
動もすればはやり勝ちな、一党の客気を控制して、徐に機の熟するのを待っただけでも、並大抵な骨折りではない。
0170ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:43:59.41ID:2aDn8M2J0
しかも讐家の放った細作は、絶えず彼の身辺を窺っている。
0171ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:44:15.04ID:2aDn8M2J0
彼は放埓を装って、これらの細作の眼を欺くと共に、併せてまた、その放埓に欺かれた同志の疑惑をも解かなければならなかった。
0172ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:44:30.75ID:2aDn8M2J0
山科や円山の謀議の昔を思い返せば、当時の苦衷が再び心の中によみ返って来る。――
0173ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:44:46.46ID:2aDn8M2J0
しかし、もうすべては行く処へ行きついた。
0174ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:45:02.07ID:2aDn8M2J0
もし、まだ片のつかないものがあるとすれば、それは一党四十七人に対する、公儀の御沙汰だけである。
0175ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:45:17.81ID:2aDn8M2J0
が、その御沙汰があるのも、いずれ遠い事ではないのに違いない。
0177ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:45:49.12ID:2aDn8M2J0
それも単に、復讐の挙が成就したと云うばかりではない。
0178ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:46:04.83ID:2aDn8M2J0
すべてが、彼の道徳上の要求と、ほとんど完全に一致するような形式で成就した。
0179ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:46:20.44ID:2aDn8M2J0
彼は、事業を完成した満足を味ったばかりでなく、道徳を体現した満足をも、同時に味う事が出来たのである。
0180ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:46:36.15ID:2aDn8M2J0
しかも、その満足は、復讐の目的から考えても、手段から考えても、良心の疚しさに曇らされる所は少しもない。
0181ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:46:51.76ID:2aDn8M2J0
彼として、これ以上の満足があり得ようか。……
0182ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:47:07.69ID:2aDn8M2J0
こう思いながら、内蔵助は眉をのべて、これも書見に倦んだのか、書物を伏せた膝の上へ、指で手習いをしていた吉田忠左衛門に、火鉢のこちらから声をかけた。
0185ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:47:54.75ID:2aDn8M2J0
こうして居りましても、どうかすると、あまり暖いので、睡気がさしそうでなりません。」
0186ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:48:10.45ID:2aDn8M2J0
この正月の元旦に、富森助右衛門が、三杯の屠蘇に酔って、「今日も春恥しからぬ寝武士かな」と吟じた、その句がふと念頭に浮んだからである。
0187ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:48:26.15ID:2aDn8M2J0
句意も、良雄が今感じている満足と変りはない。
0188ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:48:41.76ID:2aDn8M2J0
「やはり本意を遂げたと云う、気のゆるみがあるのでございましょう。」
0190ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:49:13.10ID:2aDn8M2J0
忠左衛門は、手もとの煙管をとり上げて、つつましく一服の煙を味った。
0191ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:49:28.73ID:2aDn8M2J0
煙は、早春の午後をわずかにくゆらせながら、明い静かさの中に、うす青く消えてしまう。
0192ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:49:44.44ID:2aDn8M2J0
「こう云うのどかな日を送る事があろうとは、お互に思いがけなかった事ですからな。」
0194ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:50:15.82ID:2aDn8M2J0
手前も二度と、春に逢おうなどとは、夢にも存じませんでした。」
0195ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:50:31.55ID:2aDn8M2J0
「我々は、よくよく運のよいものと見えますな。」
0196ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:50:47.17ID:2aDn8M2J0
二人は、満足そうに、眼で笑い合った。――
0198ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:51:34.25ID:2aDn8M2J0
が、現実は、血色の良い藤左衛門の両頬に浮んでいる、ゆたかな微笑と共に、遠慮なく二人の間へはいって来た。
0199ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:51:50.01ID:2aDn8M2J0
が、彼等は、勿論それには気がつかない。
0200ななしじゃにー
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2018/02/23(金) 02:52:05.66ID:2aDn8M2J0
「大分下の間は、賑かなようですな。」
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