舌がんの情報を広めることが、いちばんの対策

堀さんのケースから、われわれは何を学ぶべきだろう。私は「なかなか治らない、痛くない口内炎は要注意」という情報を社会でシェアすることに尽きると思う。もし、痛みがない口内炎が続いたら、患者さんのほうから「口内炎があるんですけど、あまり痛みはないんです」と伝えて頂きたい。

前述したように、医者は「口内炎は痛いに決まっている」と考えているので、余程口腔がんに詳しくなければ、「口内炎は痛みますか」とは聞かない。繰り返すが、早期の口腔がんは普通の口内炎と外見では区別できない。病変が大きくなり、医者が口腔がんを疑うころには病変は進行している。

臨床医として情けないことだが、患者さんから積極的な情報提供がなければ、口腔がんは容易に見落としてしまうのだ。だからこそ、メディアは、この点を強調して国民に伝えてほしい。

ところが、一連のメディア報道に、この視点はない。「堀ちえみさん?舌がんを公表?ステージ4?『また歌いたい』」(2月20日産経新聞)や「堀ちえみさん:舌がん公表に激励の声次々」(2月20日毎日新聞)のような記事が並ぶ。確かに読者が興味をもつ重要な情報だろうが、折角、読者が舌がんに関心を抱いているときだからこそ、
もっと読者の役に立つ情報を伝えてほしい。そうしなければ、堀さんのようなケースは、これからもなくならない。

堀さんの治療が上手くいくこととともに、この機会に舌がんに関する社会的な理解が深まることを願う。

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上 昌広 : 医療ガバナンス研究所理事長