「大学生になっかぁ」
試験会場に着くと、手垢でよれよれの単語帳を開いた。試験官の前に座り受験票を出す。
既にアドレナリンを漏らし、俺の脳内は俺の解答を待つ。
身体を横にして周りを見ると、自分より若いのに、頭のよさそうなやつがたくさんいた。
「俺の五回目のセンター試験だぜ」声に出していう。
「男はやっぱ浪人」
やおら筆箱の脇から、ズルムケ状態のHB鉛筆を取り出す、手に汗をたっぷり握り、逆手で消しゴムをこね回す、
「カリッ、カリッ」音が俺の記憶中枢を更に刺激する。
「四択たまんねぇ」マークシートに合わせて、鉛筆を上下させる。
「浪人の入試にゃあこれだよ」息を吸い込む。
「スッ、スッ、スッ、スッ」顔から熱くなり、やがて頭の中が真っ白になる。
「飲み会、サークル」「海外留学」
頃合いをみて問題へ取り掛かる。俺は自分のこの妄想が好きだ。
入学後すぐサークルに入り、名門大の肩書きをバックに、彼女を作り、留学をして、三年で単位をとり終え、現役であっさりと一流企業へ入る。
頭の中のの俺は、日本一のリア充になっていた。
「ちきしょうもう勉強したくネェよ」試験終了が近付くと、いつもそう思った。解答をもう一度見直し、マークを追加すると、合格へ向かってまっしぐらだ。
「大学生になってやる」「五年浪人のほんまもんの男」
「うりゃ、そりゃ」「ズリュッ、ブチュッ」消しカスを飛ばしながら、クライマックスをめざす。
「わかんねぇよ」四択の中から、激しい消去法が起こった。やがて二択となり、俺を悩ます。
 -もっと勉強しとけばよかった- -もうこれ以上はできねぇ-相反する気持ちがせめぎあい、俺は崖っ淵に立つ。
「きたっ」俺は膝を直角に曲げ、それに備える。点数はボーダーを切ろうとしていた。
「バンザイシステム! 」「ぶちっ」
受験生を押し分けて、試験会場からしゃくり出される。
真っ白い解答用紙が回収され、目の前が現実に戻る。