>>820続き)

僕かデビューしたのは2000年で、作り手として「飛ぶようにモノが売れた時代」というものを一度も経験していない。
テレビの視聴率も右肩下がりが始まっていて、「昔は良かった」と皆が言っていた。
インターネットを目の敵にしているテレビマンもいた。

基本的に僕ら世代は(下の世代は更に)、「作品は買われないのが前提で、それをいかに売るか?」という話から始まる。
本屋さんに本を置いておくだけで、CDショップにCDを置いておくだけで、ある程度売れた1990年代を見ると、
「よく、そんな売り方で売れたね」と腰を抜かす。
「今が普通で、手放しでモノが売れた1990年代が異常だ」というのが僕ら以降の世代の認識だ。
それゆえ、「出版不況」だとも思っていないし、「CD不況」だとも思っていない。

出版業界に対する本音を話すと、書籍の売り上げを書籍だけで出そうとしているところが、もう、クソ味噌に古臭いと思っている。
もはや書籍なんて『無料』でも良くて、書籍をパブ(広告の場)にして、その書籍から始まるイベント収益や、
グッズ収益や、広告収益や、ファンクラブ収益で、マネタイズすればいい。
テレビがそうであるように。
こんなことを、1990年代を経験した人に話すと、「書籍を無料? は? 何言ってんの? 業界を壊す気?」と、
ほぼ10割の人から非難を浴びる。

1990年代の病は確実に存在する。
作り手として、1990年代の恩恵を受けた人間は、その「異常」ともいえる成功体験からの脱却を図らねばならない。
この病気を治すのは大変な苦労だ。
まずもって、病気の自覚がない。
そこから治療を始めなければならない。

「老害」と斬り捨てるのは簡単だ。
ただ、同業者を斬り捨てたところで、気持ちの整理がつくだけで、マーケットが縮小して、最終的に自分が損をする。

「手放しでモノが売れた」と書いたが、そんなわけはなく(少しポジショントークをしてしまいました。すみません)、当時は当時で、
彼らは身を粉にして働いた。一生懸命働いた。
そして、そこで基盤を築いてくださったおかげで、僕ら世代は今の活動を始めることができたわけだ。
ゆえに、僕らには、理解していただくまで、何度も何度も説明する義務があると思う。

「傲慢」と言われるかな?
まあ、言われても構わない。
目的は同じなのだから、話して分かってもらえるのであれば、何度でも話したいな。