太田政信さんが改良を重ねたわな。24時間監視できるカメラも近くの木にくくりつけている
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 「ほら、警戒してなかなか中に入らないでしょう?」。夜の森の中、箱わな内のえさにひかれながらも、奥まで進もうとしないイノシシの姿を捉えた連続写真を示した。

 イノシシ駆除に奮闘する太田政信さん(29)は昨年11月、嬉野市嬉野町吉田でわな作りの「太田製作所」を立ち上げた。もともと農家の長男。田んぼや茶畑を荒らし放題のイノシシに「自分で全部捕まえてやる」と6年前に狩猟免許を取り、自宅ガレージの溶接機で箱わなを作り始めたのが会社設立のきっかけだ。

 「それまでのわなは、枠をL字鋼で組んでいるため重いし高額でさびにも弱かった。亜鉛めっきの金網を曲げて組み、軽量化と腐食に強いわなを目指した」。1年目から55頭も捕獲できた。

 「昔は100人ぐらい鉄砲撃ちがいた」が、狩猟免許取得や更新には費用や手間がかかるため、近年は農家が害獣駆除のためのわな免許を取得するケースがほとんど。市内の免許所持者は現在48人、60歳以上が7割近くを占め、20代は太田さん1人だ。「若い人や都会の人にも狩猟に興味を持ってもらおう」と、フェイスブックでわな作りや駆除活動の発信も始めた。

 活動に興味を持ってもらうには「イノシシを捕るのは楽しかもんね、食べられるもんねとアピールしなければ」と、解体技術や食肉処理にも力を入れるようになった。

 一方、駆除と狩猟のずれも感じた。捕獲すれば行政から支払われる報奨金が同額なため、子どものうり坊を捕獲して満足してしまう狩猟者もいるという。「母イノシシを捕まえればうり坊も育たない。一網打尽にしないと、わなから逃れた群れは学習して全くかからなくなる」

 太田さんは昨年8月、わなのそばにインターネット中継ができるカメラを据えた。「わなにかかったら、すぐに仕留めにいける」からだ。通常は見回りでチェックするしかなく、イノシシがわなの中で死んだまま放置されることも少なくなかった。これもイノシシにわなを警戒させる要因だった。画像をフェイスブックで公開、反響を呼んだ。継続的に情報発信した結果、狩猟に興味を持つ若者らが解体を手伝い、シシ肉を楽しむ「嬉野狩部」も今年1月に発足した。

 ただ、資金面の壁が横たわった。農業被害を減らすため多くのわなを仕掛けたいが、カメラは1台約5万円。自力での展開は限界があった。そこで思いついたのが「わなの出資者をインターネットで募り、イノシシがかかったら肉を送る」というアイデアだ。

 4月に50万円を目標に募集したところ、6月末までに85人から約113万円が寄せられた。30基のわな、18台のカメラを設置できた。効率が上がり、今年は既に過去最多の70頭を捕獲した。

 取り組みは全国ニュースでも取り上げられ、今月1日には農林水産省で活動を紹介する講演をするほどに。とはいえ「少しでも狩猟に興味を持ち、免許を取って駆除してくれる地元の若者を増やしたい」というのが太田さんの願いだ。「シシ肉のうまさを知ってもらえれば活動に協力してくれる人も増える」と、食肉処理施設を市内に設置する構想を温めている。「これからも、イノシシと人の心を捕まえる取り組みを続けたい」

西日本新聞 2018年10月07日 06時00分
https://www.nishinippon.co.jp/nnp/saga/article/455745/