宮崎県日南市役所の議会棟で見つかった絵画=日南市提供
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抽象美術家、篠田桃紅さん作品に似ているが、断定できず…

 保存か、廃棄か−−。宮崎県日南市の議会棟で見つかった1枚の絵画を巡り、市が揺れている。
専門家が鑑定したところ、構図や筆遣いは墨による抽象画で知られる抽象美術家、
篠田桃紅(とうこう)さん(103)の作品と似ているものの、断定できなかった。
篠田さんに尋ねても「記憶がない」。築60年を超え老朽化した議会棟は、
隣の市役所本庁舎とともに建て替えが決まっており、取り壊しを終える2021年度までの決断を迫られている。【黒澤敬太郎】

 市教委の黒木康英教育長は昨年6月の議会中、議会棟応接室で待機していたところ、偶然本棚の後ろに1枚の絵画があるのを見つけた。
本棚を動かすと額縁に入った縦約2・4メートル、横約3・7メートルの作品が現れた。
ピンクや黒などの濃淡を筆で表現した抽象画で「テレビで見たことのある篠田さんの作品に似ている」と思った。

 作者のサインはなかったが、篠田さんは1962年に市役所の近くに建設された「市文化センター」の、どんちょうなども手掛けている。
黒木教育長は「こうした縁で篠田さんの作品を入手したのではないか」と考えた。

 市教委が調査したが、入手経過を記載した文書は見つからなかった。
このため市教委は、議会棟が完成した56年当時を知る可能性のある80歳以上のOB6人に尋ねたが、いずれも「知らない」。
そこで、市文化センターが建設された62年から10年分の市議会議事録を調べたが、関係する発言は見つからなかった。

 ■「記憶ない」

 市教委はさらに、篠田さんの作品を多数収蔵している岐阜現代美術館(岐阜県関市)に鑑定を依頼。
同館学芸員の宮崎香里(かおり)さんが調べたところ、構図や筆遣いは篠田さんの作品に近いが、
ほとんど使わないピンクを使っているなど異なる点もあり、結論は出なかった。
その後、宮崎さんが篠田さんに尋ねたところ、市文化センターのどんちょうなどは覚えていたが、議会棟の絵は「記憶がない」と答えたという。

 ■保存か廃棄か

 市は築61年を迎えた本庁舎や議会棟の建て替えを決定。
昨年4月の熊本地震で熊本県内の自治体の庁舎が被災したことから移転を急いでおり、
既に市の一部機能を別の施設に移し、議会棟も来月までに引っ越しを終える。
21年度をめどに解体し、同じ場所に新庁舎を建設する予定だ。

 絵画を新庁舎に移すなら運送費用がかかる。さらに絵の一部に、くすんだような汚れがあり修復も必要だ。
しかし、篠田さんの作品と証明されなければ関連する予算を組むことは難しい。
岡本武憲・生涯学習課長は、「もしかしたら経緯を知る人がいるかもしれない。情報を寄せてほしい」と訴えている。情報提供先は同課。

 ■人物略歴

篠田桃紅さん

 本名・篠田満洲子(ますこ)さん。中国・大連生まれ、東京育ち。1956年に渡米し、ニューヨークを拠点に各地で個展を開催。
墨による抽象画を確立し、国内外で高い評価を得た。作品は大英博物館など国内外で収蔵されている。
2015年に刊行したエッセー「一〇三歳になってわかったこと 人生は一人でも面白い」(幻冬舎)はベストセラーになった。東京都港区在住。

http://mainichi.jp/articles/20170225/k00/00e/040/295000c
http://mainichi.jp/articles/20170225/ddg/001/040/003000c