22年前に国内で初めて大阪で発見された特定外来生物の毒グモ「セアカゴケグモ」。海外では死亡例もあり“殺人グモ”と騒がれたが、今も生息域を着実に広げ、41都道府県で確認されるまでに至っている。「強い繁殖力」という特徴は、強毒の「ヒアリ」にも共通するが、専門家は生態に関する情報が乏しい現状を踏まえ、ヒアリについても冷静な対応が重要だと訴えている。

■メスに神経毒 

 豪州原産で、熱帯から亜熱帯を中心に生息するセアカゴケグモ。腹部背面の赤いもようが特徴で、「α−ラトロトキシン」という神経毒を持つメスの個体にかまれると、嘔吐(おうと)や発熱などの症状が出る場合がある。一方、ヒアリと異なり、攻撃性はないとされる。
 セアカゴケグモは、日本では平成7年秋、大阪府高石市で初めて発見。生態に関する情報のあやふやさを背景に、関西では毒グモ騒動が過熱した。
 注意を呼びかけるビラが各地で配布され、行政による駆除作業の様子は大々的に報道された。「毒性は比較的弱く重症には至らない」。同年12月、府が調査結果を発表すると、騒ぎは沈静化していった。
 死亡例もなく、人々の関心が冷めたセアカゴケグモだが、その後も生息域は拡大している。

■41都道府県で確認 

 環境省によると、発見から20年が経過した平成27年9月時点で、すでに41都道府県で確認された。繁殖力が強いうえ、広範囲に移動するコンテナや自動車などに巣を作ることから、全国各地に運ばれたとみられる。ただ、今では発見されても大きなニュースになることはめずらしい。
 「ここまで範囲が拡大するとは予想していなかった」と語るのは、セアカゴケグモの生態に詳しい追手門学院大の加村隆英名誉教授(クモ分類学)。当時はセアカゴケグモに関する正しい知識を持った専門家が少なかったこともあり、「『非常に危険だ』『実はおとなしい』といったさまざまな情報が錯綜し、社会が混乱した」と騒動を振り返る。
 加村氏は現在、各地で相次いで発見されるヒアリについても関心を持っており、「何とか水際で食い止めてほしい」とする。ただ、22年前の騒動の教訓から「(情報が乏しい中で)危ない、危なくないの二者択一論に陥るのは非常に危険だ」と訴え、冷静な報道や対応の必要性を強調している。

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22年前に大阪で初確認されたセアカゴケグモ。今は全国に生息域が拡大している