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「親子3人家族で住むには、60平方メートルのマンションはちょっと狭い」。
ひと昔前はこれが常識だった。だが、最近ではなんと40平方メートル台の2LDKマンションが発売され大ヒットしており、
業界に衝撃を与えている。とりわけ都心では「つくれば売れる」という状況が続いているというから驚きだ。

いまの3人家族には40平方メートルで十分!?

具体的には40平米の前半、つまり数年前までは1LDKとして計画された広さのマンションで、
2部屋のうちマスターベッドルームは4畳半程度しかない。「寝るスペースさえあればよし」とする若い人々にとっては、
この広さで必要十分なのだという。部屋は狭いながらもコンパクトなウォーク・イン・クローゼットがしっかり付いているのも特徴だ。
衝撃的なのはもう1部屋の方で、広さはシングルベッドをひとつ置ける3畳ほどしかない。つまり2LDKといっても「ワンベッドルーム+ベッド」と
う構成なのだ。40平方メートル超程度でも、2部屋が並列して外部に面するように設計されているため、
夫婦2人でも、子供と3人でもコンパクトに暮らせる。そういったフレキシビリティーこそが人気の秘密なのだ。

この手の企画型コンパクトマンションを販売する中堅不動産会社は、大手不動産が得意とする3LDKや4LDKのマーケットで無理に勝負をせず
このようなミニマルプランを武器に子供1人の家族やDINKSの需要を獲得している。

われわれ建築事務所側も、某中堅不動産会社から新型2LDKの設計コンサルの依頼を受け、これまでさまざまな種類のプラン提案を行ってきた。
一住戸あたりの必要最低間口を部屋の大きさや形からシミュレーションし、パズルのように解析しながら全体計画の指針をミリ単位で決定するのが特徴だ。
特に敷地面積に制限のある都心部では、過不足のないシビアな設計が求められるわけだ。

「予算4000万円台、超都心」で広さを犠牲に
おそらくここまで細かく区切った2LDKはいまだかつてなかったのではないだろうか。天井の高いスタジオやロフトのようなタイプに、
ブース状に空間を挿入するスタイルは比較的よく見かけるが、天井の低い空間を細かく区切るという発想は、
せせこましくなるため、これまではむしろ敬遠されてきたように思う。
販売価格は、東京中央部の3区の中でも比較的リーズナブルな価格帯の日本橋あたりで4000万円程度。
渋谷や目黒などの主要駅周辺であればさらに高く売れる。40平方メートル台の2LDKコンパクトマンションは、
立地にこだわり、「生活の利便性に対しては譲れない」という都市志向の人たちが住む部屋だ。都心に住みたいと願う彼らも
予算は限られているため、ダウングレードするならば、もはや面積しかないというのが現実なのだ。
土地神話全盛時代に建てられた中古マンションでもこのような間取りは少なく、少子化傾向の現代のほうが広さや高さが
圧倒的に窮屈なつくりになっている。例えば1階を半地下にし、各階の天井高を抑えながら階数を増やすことで、可能な限り部屋数を増やしているのが現状である。

一方、ヴィンテージマンション(中古になっても価格が落ちにくい名作マンション)は広さや高さに比較的ゆとりがあることから、
リノベーションによって豊かな空間が獲得できる。
ただし、給排水設備の老朽化に対する不安などがついてまわる。日本人は新築志向が根深いため、
40平方メートル台のコンパクトマンションを買う人は、狭くてもやはり新築がよいと判断しているのかもしれない。
一時的にマンションを所有し、運用していくという発想ならば、中古より新築の方が、リスクが少ないのは間違いない。
都心の新築を買い、10年後に高値で売る。マンションではこの形式が最もリスクが少ないからだ。
この発想はすでに巷で流布されているとおりだが、その次の10年でメリットを出すのは難しく、それ以降はさらに厳しくなっていく。
そもそも最近の新築マンションはリノベーションしようにも、騒音などの理由で水回りの位置変更ができない場合が多く、
大幅なプラン変更が現実的ではないのも特徴だ。
それでも都心のコンパクトな新築が良いという若い人が増えているのは「できるだけ身軽でいたい」という気持ちが強いからなのかもしれない。