[北京/香港 28日 ロイター] - 中国の国有銀行でクレジットカードの営業に携わるコーラ・ヤオさんは、昨年より収入が40%も減り、洋服や化粧品の購入を減らして子供の夏期水泳教室をキャンセルした。

「減給はあらゆる面で私の生活に深刻な影響を与えている」とヤオさんは言う。

ヤオさんが予想外の倹約を強いられる背景には、中国経済の減速がある。中国共産党指導者らは今週、主要な政策目標である家計消費の回復に向け、労働者の所得を増やすと公約したばかりだが、景気減速がその努力を難しくしている。

汚職撲滅にあたる中国当局が今年、金融セクターにおける「欧米流の享楽主義」を排除すると宣言したのを受け、金融企業とその規制当局は給与とボーナスを削減し始めた。

負債を抱える地方政府の中にも公務員の給与をカットしたところがある。一部の病院や学校、売上減少に直面している一部民間企業も同様だ。

今年に入って給与が下がった国民の数は不明。ただエコノミストらは、顕著な賃下げの事例が、ただでさえ脆弱(ぜいじゃく)な消費者心理をさらに圧迫し、デフレスパイラルが発生するリスクを高めていると警告している。

「賃下げはデフレリスクを強め、消費意欲を減退させるだろう」とANZのシニア・チャイナ・ストラテジスト、ザオペン・シン氏は言う。

中国国民の今年上半期の平均所得は、前年同期より6.8%多い月1万1300元(約22万円)だったが、このペースを維持できるという楽観的な見方はほとんどない。

エコノミスト・インテリジェンス・ユニットのシュー・ティアンチェン氏によると、この所得増加は新型コロナウイルスに伴うロックダウンが解除され、農村部の出稼ぎ労働者が工場に戻ったことが主因とみられる。この要因がホワイトカラー職の賃金の低い伸びを補っているという。

人材紹介会社、智聯招聘の調査によると、主要38都市の新規求人で提示された平均賃金は、第1・四半期は前年同期比0.9%の伸びにとどまり、第2・四半期には同0.7%減に転じた。

家計の総可処分所得は1―6月に5.8%増と、経済成長率の5.5%を辛うじて上回る伸びでしかない。

個人消費の国内総生産(GDP)寄与度が他国よりはるかに低いという、中国の主な構造的弱点を解決するには、可処分所得が経済成長率をはるかに上回るスピードで増加する必要がある、とアナリストは言う。

過去40年間の大半はその逆だった。

<弱い賃金交渉力>

中国では一方的な賃金カットは違法だが、給与体系が複雑なため、抜け穴がある。

ヤオさんの月収が6000元に下がったのは、勤務先の銀行が、彼女が販売するクレジットカードの使用量に連動した業績目標を引き上げたからだ。

一方、東部の蘇州市で化粧品を販売していたシャオさんは、会社を辞めるか、50%の賃金カットを受け入れるかの選択を迫られた。彼女は前者を選んだが、同僚たちは賃下げを受け入れ、給料の遅配にも直面している。

香港を拠点とする権利団体「中国労工通訊」のエイダン・チャウ研究員は「労働者は会社からだけでなく、労働市場からも圧力を受けている。交渉力が弱まっているので、賃下げを受け入れがちだ」と言う。

公務員によると、国家機関は基本給を据え置いて各種手当を減額する方法を採るのが普通だ。

上海の公立病院に務めるある医師は、この病院が四半期ごとのボーナスを中止し、職員に残業を増やすよう求めたと語った。医師はこの2年間で給与が20%下がった。「病院側からはお金がないと言われた」そうだ。

倹約はまん延しつつある。

中国の小売売上高はまだコロナ禍前の基調に戻っておらず、家計は貯蓄を好んでいる。

1―6月の家計の新規銀行預金は15%増の12兆元で、この期間の小売売上高の50%以上に相当した。

アナリストはこれを、消費者の間で金銭的な不安が広がっている兆候だと言う。

シティの中国チーフエコノミスト、シャンロン・ユー氏は、「弱い信頼感が定着すれば、自己実現的に景気回復を遅らせる可能性がある」と警告した。

(Ellen Zhang記者、 Marius Zaharia記者)

2023年7月30日8:35 午前
ロイター
https://jp.reuters.com/article/china-economy-wages-idJPKBN2Z807N