米連邦準備理事会(FRB)は6日発表した金融安定性報告(FSR)で資産価格の急落につながるリスクに警鐘を鳴らした。株式などリスク資産は期待される収益や過去の水準と比べて高くなっていると指摘。価格の急落局面に対して「脆弱であるかもしれない」と警戒する。FRBは経済の正常化に向け、金融緩和を推し進める必要もあり、金融の安定性との両立は難しさを増している。

FRBは年に2回、金融安定性報告書を公表し、金融機関や市場の健全さを点検している。この半年ではゲームストップ株が乱高下したほか、ファミリーオフィス(個人資産の運用会社)のアルケゴス・キャピタル・マネジメントが大きな損失を出すといった騒動もあった。

報告書の責任者であるブレイナード理事は「リスクを追い求める動きが加速し、脆弱性は高まっている」と指摘する。株価が最高値の更新を続けているほか、低格付けの社債の金利が大きく低下している。報告書では資産価格は収益や過去の状況と照らし合わせても、「バリュエーション(価値評価)が全般に高い」と分析した。

こうした状況を生み出している一因は低金利の長期化だとも指摘した。金利が低いと、金融機関は収益を確保するには、よりリスクの高い資産に投資する必要がでてくる。金融政策の不確実性が低下すると資産価格の変動は小さくなりやすく、「借り入れによる投資の拡大につながる」と説明する。

報告書では、金融機関がレバレッジ(てこの原理)を効かせて投資を膨らませている点についても警鐘を鳴らした。特に生命保険会社は多額の社債投資に加えて複数の低格付け企業へのローン債権を束ねたローン担保証券(CLO)を保有している。企業債務が過去最高の水準に膨らんでいる点を踏まえ、景気悪化などのリスクに脆弱だと指摘した。

3月に起こったアルケゴスの損失問題にも言及した。同社が一部株式の持ち高を膨らませていたため、持ち高解消をきっかけに取引金融機関が多額の損失を被ったことを指摘。金融市場全体への波及は限定的だったものの、「金融機関の動きが幅広い金融システムに悪影響を及ぼす恐れがあることを浮き彫りにしている」とした。

その一因として、ノンバンクへの銀行貸し出しが急増していることをあげる。大手銀行からノンバンクに対する融資などの信用供与は、未利用分も含め20年末に1.6兆ドルと過去最高を記録した。

FRBは物価安定や雇用の最大化とともに、金融システムの安定も重要な使命だ。この1年は物価や雇用を重視し、強力な緩和を続けてきたが、仮に金融システムの安定性が揺らぎ始めると緩和の継続も判断が難しくなる。

パウエル議長は4月28日の記者会見で、株式市場に「フロス」(バブルより細かい泡)があるとの見解を示した。現時点で金融の安定性に問題はないとしつつも、資産価格の上昇は「金融政策と無関係ではない」と話す。

ブレイナード理事は報告書で、雇用と物価に集中した金融政策運営のためにも適切な金融規制や金融機関への監視が重要だと訴えた。アルケゴス問題に関しても、より詳細で頻繁な開示が必要だとの見解を示した。

異例の金融緩和が長期化しているだけに、金融市場の過熱感が強まるようであれば今後の金融政策運営に影響を及ぼす可能性がある。

(ニューヨーク=後藤達也、斉藤雄太、南毅郎)

2021年5月7日 6:32 (2021年5月7日 10:19更新)
日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN070420X00C21A5000000/