所有者が分からない土地の問題を解消するための関連法が21日の参院本会議で可決、成立した。土地や建物について相続を知ってから3年以内の登記を義務付ける。2024年をめどに施行する。全国には所有者が分からず公共事業や再開発の妨げとなる土地が多い。有効活用するだけでなく、新たな所有者不明土地の発生も抑える。

改正民法、相続土地国庫帰属法が成立した。民間の調査では登記上の所有者が確認できない土地は日本の総面積でみると九州本島より広いという。

法整備の狙いの一つは、これまで所有者が不明だった土地を市場に流通させることだ。裁判所の判断で所有者が分からない土地の用途を変更したり売却したりできる制度にする。

放置されて荒廃した所有者不明の土地は裁判所の許可を経て売却できる。代金は裁判所が管理する。いままで休眠状態だった土地が市場に出回ることになる。

共有者がわからない共有地も利用しやすくする。裁判所が決めれば、所在不明の共有者を除外して共有地に宅地の造成などが可能だ。

所在不明の共有者の持ち分については、相当する金銭を供託して取得・売却できるようにする。

所有者が不明の土地は都市部より地方に多いとされる。そのため商業的な効果が大きい土地の取引が一気に進むわけではない。とはいえ市街地でも権利関係が込み入って開発が頓挫した場所の利用が促進される可能性がある。

法整備のもう一つの狙いはさらに所有者不明の土地を増やさないことだ。相続を控えている人に関係してくる。相続が分かって3年以内に登記するよう義務付け、手続きも簡素にする。

相続人の誰か1人の申し出で簡単に手続きできる仕組みも設ける。これまで相続登記は相続人全員の戸籍などを集める必要があり、面倒な手続きを避けて登記しない例があった。

所有者不明の土地の多くは、時がたつにつれて元の所有者にたどり着くのが難しくなる。土地を活用したくても、所有者を探して現地を調査しなければならないなど手間がかかる。

土地を手放しやすくする制度も盛り込んだ。今回成立した相続土地国庫帰属法では、望まない土地や利用価値が乏しい土地を相続して手放したい人は不要な土地を国庫に納付できるようにした。23年をめどに導入する。

各地の法務局による審査を経て、10年分の管理費相当額を払えば国に納められる。相続放棄でも土地を第三者に委ねることが可能だが一部の不要な不動産を選ぶことはできない。

納付された土地は国が公共の用途に利用できるよう一般競争入札などを通じて売る。成立しなければ国が管理する。

所有者を捕捉するため住民基本台帳ネットワークを使う。法務省は登記された名義人が死亡したり、住所を変更したりした場合の情報を取得して所有者の状況を把握できる。

政府は18年に所有者不明土地の利用を円滑にする特別措置法を成立させた。都道府県知事の判断で所有者不明の土地を公共的な事業に利用できるようにした。今回の関連法で民間も含めた土地の取引を活発にする。

民間からは今回の法整備を評価する声があがっている。不動産協会(東京・千代田)は「再開発などの妨げとなる問題の解決に寄与するもので歓迎する」とコメントを出した。

相続した土地を国庫に納付する制度には、地方で戸建てやマンションの建設が進む期待がある。青山財産ネットワークスの担当者は「所有者不明土地の集約が進み、有効利用や地方創生事業が可能」と説く。

「官民の連携が増えて地方活性化や公共事業を実現できれば、社会課題の解決は期待できる」とも指摘する。

一方で都心部での再開発を期待する意見は乏しい。大手不動産会社の幹部は「都心の一等地の所有者不明の土地は以前より減っており、大きな効果は出ない」と語った。

所有者不明土地問題に詳しい荒井達也弁護士は「より積極的に遺産分割を促進するための施策が必要だ」とさらなる制度改革を求めた。

2021年4月22日 2:00
日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA19B130Z10C21A4000000/