【モスクワ=小川知世】ロシア政府は11日、新型コロナウイルスのワクチンを承認したと発表した。新型コロナワクチンの承認は世界で初めて。ただ、国際的に承認に必要とされる大規模な臨床試験(治験)を完全に終了しておらず、安全性を懸念する声も強い。

「今朝、世界で初めて新型コロナのワクチンが認められた」。プーチン大統領は11日の閣僚とのテレビ会議で成果を強調した。開発されたワクチンをプーチン氏の娘が接種したことも明かし、安全性に自信をみせた。

承認されたのはモスクワの国立ガマレヤ疫学・微生物学研究所が国防省と開発したワクチンで、9月に量産を始める。保健省は医療従事者などから接種を進め、10月にも大規模な接種を無料で始める方針を示していた。

一方で安全性や効果を疑問視する意見もある。ワクチンは約80人を対象にした治験を終了した段階で、大規模な治験は承認後に量産などと並行して実施する。ロシアの臨床研究機関協会は10日、副作用などのリスクが検証されていないとして、治験の全段階を終えるまで承認を延期するように求める声明を発表した。

ワクチン開発を巡る国際競争は激しくなっている。ロシアには欧米や中国に先駆けて承認したワクチンを他国に輸出し、影響力の拡大につなげたい狙いもありそうだ。

開発に投資する政府系のロシア直接投資基金によると、これまでに20カ国以上がロシアのワクチンに関心を示している。10日にはフィリピンのドゥテルテ大統領がロシアからワクチンの供与を受ける意向を表明した。

ロシアの新型コロナウイルスの感染者は11日までに約90万人。1日に約5000人の増加が続き、当局発表の死者数は1万5000人を超えた。経済が悪化するなか、国民の不満拡大を警戒する政権は開発を急いでいた。

2020/8/11 18:58
日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO62522460R10C20A8FF8000/