2020年04月27日

―[魂が燃えるメモ/佐々木]―

いまの仕事楽しい?……ビジネスだけで成功しても不満が残る。自己啓発を延々と学ぶだけでは現実が変わらない。自分も満足して他人にも喜ばれる仕事をつくる「魂が燃えるメモ」とは何か? そのヒントをつづる連載第176回


 松下幸之助という実業家がいます。松下電器(現パナソニック)を一代で築き上げた、昭和を代表する立志伝中の人物です。また晩年は「松下政経塾」を開き、政治家や実業家の育成に尽力しました。  
松下電器を創設する以前の彼は、「大阪電灯」という電力会社で働いていました。社内での評価は高く、22歳で配線工事をチェックする検査員に昇進しています。これは一緒に昇進した中でも最年少でした。  
検査員の仕事について、「非常に楽で、時間にも余裕があり、羨ましがられた」と彼は振り返っています。普通ならば喜びそうな待遇です。ところが、その昇進のわずか5ヶ月後に退職して独立します。  
退職は一つの決断です。そして、決断には「人物の影響」があります。松下幸之助の退職と独立には、大阪電灯で上司だった主任が影響しています。  
松下幸之助は検査員になる少し前から、ソケットの改良を思案していました。その試作品を主任に見せたところ、「松下君、これは君だめだぜ。問題にならんね。この程度のものであれば課長に話しもできない、君」と酷評されてしまいます。  
検査員になった当初、彼はその仕事に打ち込んでいました。しかし、彼にとっては楽であるがゆえに退屈で、すぐに「このままでよいのか」と思い悩むようになります。その結果、「会社を辞めソケットの製造をし、そして会社に買ってもらう。主任はだめだといったがそれは見誤りだ」と結論を出して退職します。  
人物の影響には、「原動力」と「呪縛」の2種類があります。誰かの言動が喜びや怒りになって、自分の決断を促してくれる。それが原動力です。誰かの言動が悲しみや呪縛になって、自分の決断を妨げてくる。それが呪縛です。松下幸之助の退職の決断は、否定されたことに対する反発心が原動力になっています。  
松下幸之助はこの主任の評価に対して、「実はずっと後ではあるが、このソケットは一利一害で全く失敗であったことがわかった」と言っています。また、独立して最初に作ったソケットはほとんど売れず、別の製品を製造して販売していました。
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人物の影響に気づくコツ
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