4月に実施した全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の結果が7月31日、公表された。同調査は全国の小学6年生、中学3年生が原則として全員受ける学力テストで、今年は中学3年生を対象とした「英語」のテストが初めて実施された。結果から、おしなべて英語が苦手といわれる日本の中でも、地域格差が広がりつつあることが見て取れた。

 「英語」の公立校の「聞く」「読む」「書く」の正答率の全国平均は56.0%。これに対して、政令指定都市別のトップとなったさいたま市は正答率62%だった。さいたま市教育委員会は、2016年度から実施する小学校から中学校までの独自の英語教育「グローバル・スタディなどの成果が出た」と語る。

 同市は国の中学の年間授業数140時間に比べて17時間多い157時間を確保。“+α”の時間数を生かし、例えば環境問題にちなんだ話題を教科書で学べば、「身近な環境問題は何があるか」「どのようなことができるか」について英語で書いたり、話し合ったりする時間に充てている。

 さらに2018年度から、英語教育で「PDCA」サイクルを回す試みを始めた。市内の全中学2年生、1万人規模にベネッセコーポレーションが提供する「GTEC」を活用して「聞く・話す・読む・書く」の4技能を測定。各校で強みや弱みを分析し、授業の改善につなげている。ほかにも小中学生を対象にする外国語指導助手(ALT)との英語漬けの「イングリッシュキャンプ」の実施など、目白押しの英語教育メニューの効果が表れたようだ。

都道府県別で東京都と福井県と並んでトップだった神奈川県の担当者は「分析はこれから」とするが、学力テストにあわせて実施された生徒への質問調査に注目する。「1、2年生のときに受けた授業では、スピーチやプレゼンテーションなど、まとまった内容を英語で発表する活動が行われていたと思いますか」との問いに肯定的に答えた生徒は全国平均より3.9%高かったという。

 また「あなたは将来,積極的に英語を使うような生活をしたり職業に就いたりしたいと思いますか」との問いに、肯定的な回答をした生徒も平均より5%以上高かった。背景に「神奈川県には外国人観光客や住民が多い。『地域の外国の方とあいさつする』という課題を出す学校もあると聞いている」と環境を生かした授業も功を奏したようだ。

 一方、正答率51%だった佐賀県の担当者は「結果を真摯に受け止める」と反省を口にする。文部科学省は2021年度から中学での新学習指導要領の全面実施を予定しており、英語については対話や学習した語い・表現を実際に活用する活動を重視する。今回のテストでも資料を読んだうえで、自分の考えを答える問題などが出題されるなどしたが、「他の都道府県に比べて、新学習指導要領の趣旨への対応が十分でなかった可能性がある。個別具体的な傾向を分析し、改善していく」と話した。

 また今回は参考値とされたものの、「話すこと」の正答率は30.8%にとどまり、話す力の強化への課題もあらわになった。東京学芸大学の高山芳樹教授(英語教育学)は、自ら質問内容を考える問題が出題されていたことに注目する。「これまでのように質問に回答するだけでなく、学習した単語や質問パターンを用いながら、即興で、話す内容を組み立てる力を伸ばすことが今後はますます重要になってくる」と指摘した。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00002/080100589/