昨年の訪日外国人数は過去最多の3199万人だったが、日本人の海外旅行者数も微増(6%増)ながら1895万4000人(日本政府観光局)で過去最多だった。

日本人の海外旅行者数を押し上げたのは、韓国や台湾、香港など、近隣のアジア方面に出かける旅行者が増えたことにある。例えば、2018年の訪韓日本人は、前年比27.6%増の294万8527人(韓国観光公社)、訪台日本人も200万人強(台湾観光局)で前年より伸びている。


足を運ばず、情報だけで満足か

実は、この出国率の低さは最近のことではない。日本人の海外旅行者数は、すでに1990年代半ば頃から1600万人〜1800万人の間で伸び悩んでいる。日本を訪れる外国人は著しく増えたが、日本人の海外旅行者数はこの25年間増えていないのである。

理由はいろいろ考えられる。国土の大きさの違いがあり、韓国や台湾など小さな国ほど出国率は高くなりがちだ。観光資源の集積度で日本が恵まれているのは確かで、海外に行かなくても国内で旅行を楽しめる環境にあるからと言えなくもない。

また、多くの日本人が、趣味やレジャーの多様化によって、海外旅行にお金をかける価値をあまり感じなくなっていることも挙げられるだろう。近年の近隣諸国との政治関係の悪化や朝鮮半島情勢にみられる国際社会の不穏な雲行きも、多くの日本人を内向きにさせるのに十分かもしれない。

とはいえ、近隣アジアの国々に比べ、これほど極端に日本人が出国しないというのは、さすがに心配である。ここで1人あたりのGDP(2017年)を比較しても始まらないかもしれないが、韓国(29位)や台湾(36位)は、日本(25位)より低いことを考えると、日本人の出国マインドの萎縮は、単に懐具合の問題だけではなさそうだ。

昨今では訪日外国人の増加ばかりが取り上げられがちだが、彼らが増えた理由は、結局のところ、経済成長で所得の向上した近隣アジアの人たちからみて、長期デフレの日本の物価が相対的にみて高いと感じなくなったからなのだ。これは日本人にとって素直に喜べない話だが、実際にアジアの国々を訪ねたことがある人なら実感しているだろう。出国率の低さは、この種の近隣アジアに対する理解も含め、日本人の情報格差を拡大しているおそれがある。

そもそも海外旅行に行く、行かないというような話は、人に無理強いするものではない。それでも、メディアやネットを通じて伝えられる海外の情報がどれほど公平で客観的なものなのか、自分なりの判断指標を持つために、自分で海外に足を運ぶことが、これほど必要とされる時代はないのではないだろうか。これは若い世代に対してより、むしろ、この国の大人たちに言いたい気がしている。
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