厚生労働省の毎月勤労統計で昨年1月以降の賃金伸び率が異常に上振れした問題で、上振れを招いた数値処理の一部を同省が総務省統計委員会に事前に報告していなかったことが分かった。労働者数データの更新に伴う過去値の改定を、厚労省がほぼ独断で取りやめていた。統計委側は「事前に報告するのが適切だった」(総務省担当室)としており、不透明な経緯の検証が求められる。

 厚労省は昨年1月、同統計に最新情勢を反映させるため労働者数データを6年ぶりに更新。それまでデータ更新時は過去の数値と比較できるよう公表値をさかのぼって改定していたが、同月以降はこれを取りやめ、賃金伸び率が月給ベースで0・3ポイント程度上振れする要因となった。

 前年同月比の賃金伸び率は1%未満が多いため、大きな上振れとなるが、厚労省幹部は「事前の試算はせず、影響の大きさも認識していなかった」。統計委への報告や諮問も「過去値を改定しないことは統計委の見解に添った対応と認識していたため、しなかった」という。

 ただ、厚労省は同じく昨年1月に調査手法も併せて変更しており、これについては事前に統計委に諮問していた。統計委を経なかった今回のケースについて、総務省の担当者は「法令上の問題はないが、結果的に大きな影響が出たことを考えると、事前に統計委に報告して判断を仰いだ方がよかった」と指摘する。

 統計委は昨年8月に厚労省の判断を追認したが、なぜ厚労省が統計委に事前報告しなかったのか、詳しい経緯は明らかになっていない。ある経済官庁の統計担当者は「もし伸び率の上振れにつながると統計委が事前に知っていたら、厚労省に何らかの指摘をした可能性もあるのではないか」とみる。

 そもそも厚労省が過去値を改定しなかった背景には、中江元哉元首相秘書官や麻生太郎副総理兼財務相の「問題意識」があった。行政の情報管理に詳しい専修大の山田健太教授(言論法)は「統計の継続性を担保するために手法の変更点を明らかにするのは当たり前だが、それがなされなかった。厚労省に数値を良く見せようという意図があったと疑われても仕方がないのではないか」と話す。
https://www.nishinippon.co.jp/nnp/national/article/507925/