2018年12月28日、多くの会社が仕事納めを迎えた日。1年の仕事を終えてホッと緩んだ世間の雰囲気と対照的に、そのビルの1室は真剣な空気に満ちていた。中で行われていたのは、プログラミング講座。受講者は思い思いにPCと向き合ってRubyと格闘したり、他の受講者とディスカッションしたりしている。

 一見、一般的な社会人向け講座。だが受講者が独特だ。集まっていたのは全員、企業の経営者。12月23〜29日の7日間集中で、経営者限定のプログラミング講座が開催されていたのだ。

 プログラミングスクール事業を手掛けるdivが運営する「経営者限定TECH::CAMPイナズマ」だ。経営者が知識ゼロの状態からRubyを学び、HTMLやCSSの知識も習得する。最終的にはRuby on Railsを使ったWebサービス開発に挑む。

 受講者にはネットサービス企業だけでなく、ITとは直接関係のない業種の経営者も名を連ねる。その1人がインテグラル代表取締役パートナーで、スカイマーク代表取締役会長も務める佐山展生氏。「1週間まとめて時間を取れるのが年末しかなかった。受講するのに、ゴルフの予定を3件キャンセルした」と笑う。

 多忙を極める佐山氏が、貴重な時間を割いてわざわざプログラミング講座に足を運んだのはなぜなのか。疑問を直接ぶつけると、「ITを使ってやりたいことはどんどん浮かぶのに、一体どれくらい難しいのかが分からない。その見当が付くようにしたかった」という答えが返ってきた。

搭乗券からアンケートに回答
 佐山氏が例に挙げたのが、スカイマークが2018年9月に導入した顧客アンケートシステムだ。同社は1カ月に4000便を超える航空機を運航し、1日当たり2万人ほどが利用する。利用者の声を聞いてサービス向上に生かしたいと考えたが、アンケート用紙を配布して記入してもらうのは大変だしコストも掛かる。「毎日多くの方に乗っていただいているのだから、搭乗券からアンケートに回答できる仕組みを作ればいい」と佐山氏は考えたという。

 そこでアンケート用のWebサイトを作り、搭乗券にはサイトに誘導するQRコードを付けた。目的地への着陸後にスマートフォンなどでアクセスすると、空港や機内での係員の対応などを問う設問が現れ、簡単に回答できる。メールアドレスを登録すれば、抽選でギフト券ももらえる。狙いは当たり、多いときは1日に数百件もの意見が寄せられるようになった。

 想定外の効果もあった。アンケート開始前には、利用者から率直な声が集まれば苦言が多数を占めるのではと予想していた。だが実際には「お褒めの声を予想以上に頂いている」(同社広報)。手軽に回答できるぶん、対面ではわざわざ言わないような感謝の声が多く寄せられ、「こんなことが喜ばれていたのか」「頑張っていたことがきちんと評価されている」といった気づきがあった。「現場担当者のモチベーション向上にとても役立つと考えている」(同社広報)という。

 実はこのシステムの導入は、佐山氏がずいぶん前に発案したという。だが実現までには、同氏の想定以上に時間が掛かった。「このシステムに限らず、すぐに作れるだろうと言っても担当者にできないと返されたら、これまで反論できなかった。それが(技術的に)どれくらい難しいかが分かれば、もっと踏み込んで議論できる」(同氏)。実際、今回の講座を受講して、Webのアンケートシステムがどの程度の工数で作れるかを体感した。
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