iPhoneをほしいと思う人が少なくなった
その後、ジョブズの下でアップルはiPhoneを開発した。iPhoneの登場は、スマートフォンの世界的普及に拍車をかけ、フィーチャーフォン(ガラケー)からの乗り換え需要を生み出した。

2011年、ジョブズは世を去った。ジョブズの後任に選ばれたティム・クックCEOの下でアップルは、iPhoneの改良を行うことで旧モデルからの買い替え需要を確保しようとしてきた。その経営は、アップルがイノベーションではなく、ジョブズの遺産に依存して業績の拡大を目指してきたことと言い換えられる。

このように考えると、アップルショックの本質は、ジョブズが同社にもたらしたイノベーションが役割を終えつつあることにある。最大の原因は、iPhoneをほしいと思う人が少なくなったことだ。

より低い価格でも満足できるデバイスが手に入る
iPhone販売台数の減少=需要の低迷の影響を、アップルは単価の引き上げで補おうとした。しかし、ファーウェイなど中国勢が低価格・高機能のスマートフォンを開発する中、価格帯の高いiPhoneが人々の支持をつなぎとめることは難しくなっている。なぜなら、より低い価格で満足のいくデバイスが手に入るからだ。イノベーションが一巡するとともに、アップルの売り上げが減少するのは仕方がない。それを避けるには、アップルがさらなるイノベーションを目指すしかなかった。

iPhoneの登場は、世界のIT先端分野にも無視できない影響を与えた。SNS、モバイル決済や個人の信用格付けサービスなどをはじめとするフィンテック(IT技術と金融理論の融合)ビジネス、ビッグデータの獲得と分析、IoT(モノのインターネット化)、自動運転テクノロジーの開発など、スマートフォンがインターフェースとなってきたビジネスは枚挙にいとまがない。アップルのイノベーションは需要を生み出し、世界経済の成長を支える原動力の一つだったのである。

iPhoneの販売台数の伸び悩みとともに、アップルがこうしたIT先端分野での需要を取り込んでいくことも難しくなるだろう。こう考えると、アプルショックが世界経済に与えるマグニチュードは軽視できない。

そのため、2日のクックCEOの書簡公表を受けて、世界的に株価が下落した。3日には一時、ドル/円の為替レートが104円台後半まで急伸(ドル安・円高)する場面もあった。それは、東京市場が休場し取引参加者が少ない(流動性が低い)中で、アルゴリズム取引が引き起こした“フラッシュクラッシュ(瞬間急落)”だろう。類似の取引手法を行う投資ファンドなどがリスク回避を理由に、同時にドルに対する円キャリートレードのポジション(持ち高)を解消した結果、瞬間的にドル/円の為替レートが大きく円高に振れたと考えられる。

2019年後半、米国経済は減速が鮮明化する恐れ
今後の展開を考えると、今すぐに世界経済が失速することは考えづらい。世界経済を支えてきた米国では、労働市場を中心に緩やかな景気回復のモメンタム(勢い)が維持されている。減税効果の剥落とともに米国経済が減速することは避けられないが、経済成長率がマイナスに陥る失速は避けられるだろう。

2019年前半は、米国を中心に世界経済は安定感を維持できるだろう。そう考えると、昨秋以降の国内外の株価下落には行き過ぎの部分がある。

日米では政策期待も高まりやすい。2020年の大統領選挙を控え、米国では民主・共和両党が追加減税などの経済対策で歩み寄る可能性がある。わが国では、7月に衆参同日選挙が実施される可能性がある。消費税率引き上げを控え、選挙対策としての景気対策期待は高まりやすい。2019年前半、経済・政策の両面から日米の株価は持ち直す可能性がある。

2019年後半、IT先端企業などのイノベーションや、経済政策などに支えられてきた米国経済では、減速が鮮明化する恐れがある。加えて、米中貿易戦争の激化懸念も高まっている。その中で、アップルなどが新しい取り組みを積極的に進め、イノベーションを目指すことは口で言うほど容易なことではない。
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