19日の新規上場を目前に控えた国内通信大手ソフトバンクを巡り、投資家に動揺が広がっている。6日に大規模な通信障害が起き、7日には総務省が行政指導を検討していると伝わった。親会社のソフトバンクグループ(SBG)が最大で約2兆6000億円のソフトバンク株を市場で売り出す過去最大の上場案件。投資家の申し込みが殺到するもっとも重要な局面で想定外の事態が起き、個人投資家の一部で購入をキャンセルする動きが出ている。現時点で19日の上場スケジュールに変更はなさそうだが、ソフトバンクが緊急で機関投資家向けに電話会見を開くなど、混乱回避に躍起になっている。

「通信障害の原因はなんだ」、「華為技術(ファーウェイ)との提携関係は絡んでいるのか」――。野村証券を中心とした主幹事証券会社はソフトバンクからの情報収集に追われた。

今回の上場は国内で約9割が売り出される。金額は2兆円を超え、その大半が個人投資家に販売される。主幹事の証券会社がナーバスになっているのは、営業現場の一部に影響が出始めているからだ。ある都内の70代男性は6〜7日にかけて野村証券、大和証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の3社にそれぞれ1億円ずつの注文のキャンセルを入れた。その理由は「あまりにもネガティブな情報が出すぎている」からだ。

ソフトバンク株の購入を希望する投資家は原則、3〜7日までに証券会社に申し出る必要がある。実際に入金するのは来週11〜14日。大口の個人顧客は一部の資金を前受金という形で入れているが、対面証券ではキャンセルの問い合わせが出ているようだ。

あるネット証券大手では7日の締め切り日に向けて個人の申し込みは順調に増えていたが、一部に申し込みを取りやめる動きもあるという。

証券会社側は防戦に必死だ。ソフトバンク株を販売する対面証券会社は1億円以上の大口顧客への販売にめどをつけた上で小口顧客への販売を展開してきた。7日午前、大手証券会社の都内支店では「キャンセルを出さないようあらかじめ先回りでご説明に動け」と指示が飛び、営業担当者が慌ただしく出入りする姿が目立った。

これに追い打ちをかけたのが石田真敏総務相の発言だ。7日の閣議後の記者会見でソフトバンクが起こした通信障害について「行政指導を含む対応を検討する」と語った。「配当利回り5%」を魅力に感じて購入を検討していた40代の個人投資家は「IPOは見送って下値めどがみえた段階で購入したい」と慎重姿勢に転じた。ソフトバンク株への購入希望を申し出た都内在住の女性(67)は「もし上場初日に通信障害が起きていたらと思うとぞっとする。実際に購入するかもう一度考え直したい」と話す。

ソフトバンクは7日朝、「現時点で業績および1株当たり配当金の予想値に変更はない」とのプレスリリースを出した。午後には通信障害を巡って記者会見も検討したようだが、投資家への影響を考慮して取りやめたよう。午後2時からは野村証券などの主催で機関投資家向けに緊急の電話会議を開いた。ソフトバンクの藤原和彦最高財務責任者(CFO)らが参加し、通信障害が業績予想に与える影響は限られることを説明したとみられる。7日の夜にかけては、欧州や米国の投資家向けにも同様の電話会議を開く予定だ。

19日の大型上場を滞りなく終えるために、ソフトバンクも主幹事証券も投資家の不安を和らげるの必死だ。ただ個人投資家からは「説明責任が十分に果たされていない」との声も上がる。上場当日まで気の抜けない時間が続く。
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