11月5日、中国国際輸入博覧会の開幕式で習近平(シー・ジンピン)国家主席は「科技創新企業(ハイテクベンチャー)に特化した株式市場を上海につくる」と得々として語った。翌日から証券専門紙は「市場の設計がファンファーレも高らかに始まった」、「浙江省は百社超の候補企業をリストアップ」といった翼賛的な報道で染まった。

10日ほど後。上海証券取引所がネットに掲載した求人広告に多くの金融関係者がため息をつく。博士号を持つ人材に求める研究分野に「科技創新企業の資金調達」と「科創企業の統治と監理」が含まれていた。新市場はまだ人材募集の段階にある。

それでも2019年、遅くとも20年には上場第1号が現れるだろう。人工知能(AI)やロボットを開発し、イオンとも提携するディープブルーテクノロジー(上海市)も候補に挙がる。

新市場ありきという国の意向と、それに応じる企業では市場の質が下がる。今でも上場できれば株価も業績もどうでもいい「上場ゴール」と疑われる企業は珍しくない。

スマートフォン(スマホ)大手、小米の株価は約15香港ドルと上場時の公開価格(17香港ドル)を下回る。「ハードウエアの利益率は5%までに抑え、超えた分は利用者に還元する。永遠に」。上場3カ月前の18年4月、小米の雷軍・最高経営責任者(CEO)は株主が聞いたら腰を抜かすような発言をしている。

会場の武漢大学は雷CEOの母校。凱旋で精神が高揚し「スマホは高すぎる」という声にリップサービスしたのなら分かるが、この方針は取締役会で決議され、上場時の目論見書にも明記された。「誠実な人の運気はそれほど悪くならない」。雷CEOは目論見書に添えた手紙にしたためた。上場前に明らかにしたのは彼なりの誠意だが、発言に誠実であるほど業績と株価の伸び代はなくなっていく。

出前アプリ、美団点評の株価も公募割れが続く。スマホ1つで弁当や飲み物が届くのは便利だし、配送員の月収が8000元(13万円)に達するのも中国社会に革命的なインパクトを与えている。しかし、株主を含めた「三方よし」とならないのは、アリババ集団との競合などで赤字続きだからだ。

「上場を待つほど企業の評価が下がりかねなかった」。あるベンチャーキャピタル経営者の言葉だ。これが本当なら、上場後の株価は企業価値を適正に反映している。

中国の本土市場では公開価格に「PER(株価収益率)23倍まで」という上限がある。投資家保護が名目だが、多くは割安感から上場直後に上昇し失速していく。17年1〜11月に上場した414社を対象に1カ月後と1年後の株価を比較したところ、9割近い359社が1年後に株価が下がっていた。騰落率は単純平均で30%強のマイナスだ。

企業にとって上場はゴールではなく成長へのスタートだ。株の売却だけが上場の目的なら、習氏肝煎りの新市場も先行きはみえている。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO38374790Q8A131C1DTA000/