外国為替市場で新興国通貨を選別する動きが強まっている。米利上げに伴い、新興国からマネーが流出。トルコショックを機に他の新興国も通貨安に見舞われた。足元では新興国通貨売りが一服したものの、政治リスクが不安視される国もあり、市場では「第2のトルコ」への警戒を強めている。新興国の通貨安が加速すれば世界経済にも影響を与えそうだ。

 29日のトルコリラは1ドル=6.3リラ前後と年初から4割近く下落した。13日には1ドル=7リラを超えて最安値を記録した。足元では落ち着きを取り戻しつつあるが、弱含みの状況は変わらない。トルコショックで新興国への注目が高まり、市場は「第2のトルコ」に神経をとがらせている。

新興国の通貨防衛力を考える上で重要になるのは経常収支や外貨準備高の水準だ。みずほ銀行の唐鎌大輔氏は「対外的に経済のバランスがいい国は踏ん張れるが、経常赤字が大きい国の通貨は売られる」と指摘する。

 実際に経常収支の国内総生産(GDP)比でみると、トルコはマイナス5.4%と赤字の比率が高い。アルゼンチン(マイナス5%)や南アフリカ(マイナス2.8%)など赤字比率が高い国の通貨は下落しやすい傾向にある。

 外貨準備高の水準も指標になる。外貨準備高が大きいほど対外債務の返済余力が高いと見なされて通貨が売られにくくなるためだ。外貨準備額の水準を示す指標のARAをみると、トルコは52.6%。国際通貨基金(IMF)が適正水準とする100〜150%を大幅に下回る。南ア(53.5%)やアルゼンチン(72.6%)、マレーシア(90.7%)も低い。

こうした通貨防衛力に加え、政治リスクも重荷だ。「第2のトルコを探る波が南アに押し寄せるリスクがある」。第一生命経済研究所の西浜徹氏はこう警戒する。南アは大半の土地を所有する白人から無償で土地を収用し、黒人に配分する方針を発表。これに対してトランプ米大統領が22日「ポンペオ国務長官に調査を指示した」とツイッターで明らかにした。

 南ア政府はトランプ氏に「誤った認識に基づいたもので遺憾」と反論し新たな火種になっている。経常赤字比率が大きく外貨準備の水準も低い南アは新興国でも「頭1つ抜けている」(西浜氏)ため、通貨売りの標的になりやすい。米国が制裁などの可能性をちらつかせれば再び一段の売り圧力になる可能性がある。

 財政悪化の懸念もくすぶる。ブラジルは10月に大統領選が予定されているが先行きは混迷している。バラマキ色の強い公約が掲げられ、財政健全化が後退すれば通貨安を招く可能性もある。マレーシアも前政権下での財政粉飾などが明らかになり、リンギの売り圧力が高まっている。

 大和証券の篠岡麻由氏は「中国の景気減速が波及すれば更なる通貨安もあり得る」と指摘する。需要減退で商品相場が軒並み下落すれば資源国への打撃は大きい。

 欧州中央銀行(ECB)が来夏にもマイナス金利から脱却すれば、欧州マネーが新興国から流出して欧州に回帰するとの見方もある。篠岡氏は「投資家心理が悪化すればロシアなど資源国も通貨安になる可能性がある」と話す。新興国通貨の動向には長期的な目配りが欠かせない。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO34755890Z20C18A8EN2000/