物流「大動脈」山陽線が寸断 暮らし・経済に大きな打撃
2018年7月16日16時13分

西日本豪雨で寸断されたJRの在来線が復旧に1カ月以上かかる見通しとなり、地域の暮らしを直撃している。
東日本から九州を結ぶ物流の「大動脈」である山陽線が断たれて荷動きも滞り、日本経済全体に影響が波及しつつある。

自動車産業が集まる九州には、東北をはじめ本州から鉄道で運ぶ部品が届かなくなった。
日産自動車九州(福岡県苅田町)は、日産グループにおける国内生産のほぼ半分を担う拠点だ。
「生産に支障が出ないことを最優先」(同社担当者)とし、鉄道で運んでいた部品を8日以降、トラック輸送へ切り替えた。

 自動車部品大手のアイシン精機(愛知県刈谷市)も、九州の自動車メーカー向けの部品をトラックで運ぶことにした。
「自動車メーカーの生産を部品会社が止めるのは論外」(アイシン幹部)という。

 大王製紙の三島工場(愛媛県四国中央市)や日本製紙の岩国工場(山口県岩国市)も、鉄道貨物が使えずに頭を抱える。
輸送コストの面では、鉄道はトラックや船よりも安く済むだけに「費用はかかるが、何とか東京や大阪に運ばなければ……」(日本製紙担当者)と気をもむ。

 製紙最大手の王子ホールディングス(HD)は、生産調整を余儀なくされた。
米子工場(鳥取県米子市)は、上質紙や菓子の箱などに使われる紙を1日1300トンつくっていたが、半分以下に減らした。
鉄路で全国各地への出荷が滞ると、倉庫が満杯になるおそれがあるためだ。
さらに中国地方の別の2工場が水害に遭って再開が見通せず、「業績への影響が出そうだ」(同社広報)。

 野菜の出荷も滞り始めた。関西で展開する大手スーパーによると、豪雨被害が出てから、九州産のオクラやコマツナ、長ネギなどの入荷が大幅に減った。
関東など他の産地の野菜で代替していて店頭への影響はあまりないが、仕入れ価格は上がり気味だという。
担当者は「今後はジャガイモなどの野菜も含めて、品ぞろえや価格に影響が出る可能性がある」。

 JR貨物が全国で輸送しているのは、1日あたり約9万トン。だが、豪雨による運休でこのうちの3割が直接的な影響を受けた。
とくに山陽線で運んでいた東西の工業製品や農産物、宅配便などへの打撃は大きい。
同社関西支社の麦谷泰秀営業部長は「これだけ広範囲で輸送できないのは東日本大震災以来。
代行輸送では通常ベースまで輸送力を戻せない」と説明する。12日からトラックや船での代行輸送を始め、
山陰線などの迂回(うかい)ルートも検討しているが、すべてをカバーするのは難しい。

 物流現場では豪雨後、代替となるトラックの奪い合いが激しい。
運輸業界は近年深刻だったトラック運転手の不足を受け、長距離輸送を鉄道や船に切り替える動きがあり、その揺り戻しから混乱が広がった。

 西濃運輸は昨年度から片道800キロ超の長距離輸送を順次、鉄道に切り替えてきた。佐川急便も本州から九州への輸送の一部に鉄道を利用する。
両社はともに今回、東日本から九州への荷物の受け付けをやめる事態に追い込まれた。

 長崎県諫早市の北尾運送は、東京向けの県産野菜や加工食品の一部の輸送について、昨春にトラックから鉄道へ切り替えたばかりだった。
豪雨後はトラック輸送に戻したが、運転手の確保に苦労しているという。担当者は「人手もコストもかかってダブルパンチ。早く復旧してほしい」と話す。