今年3月に就任した日本銀行の雨宮正佳(まさよし)副総裁が、朝日新聞の単独インタビューに応じた。
大規模な金融緩和の開始から5年でも達成できない「物価上昇率2%」について、
「簡単に機械的に達成することは難しくなっている」と認め、7月の金融政策決定会合で要因を再点検する方針を示した。
また、緩和の長期化で金融機関への悪影響が出ていることなども踏まえ、将来の政策修正の可能性も示唆した。

 雨宮氏は、物価の伸び悩みは先進国に共通するとし、
「『アマゾン・エフェクト』と呼ばれるネット販売の物価引き下げ効果」などを理由に挙げた。
日本では人手不足でも賃上げは非正規雇用が中心で、正規雇用では雇用安定を重視する傾向が強いとも指摘。
「労働需給の引き締まりが賃金上昇に及ぶのに時間がかかる」と述べた。

 日銀は2013年からの大規模緩和で景気拡大や物価上昇への「期待」を一気に高めることを狙った。
しかし雨宮氏は「物価と経済の関係は非常に複雑なことが明らかになった」とし、
「乾坤一擲(けんこんいってき)で物価観(中長期の物価予想)を変えるのではなく、
需給ギャップと物価観の改善で着実に目標に近づいていくのが適切な方法だ」と述べた。
緩和策を「短期決戦」から、「持久戦」に転換せざるを得なくなったと認めた形だ。

 日銀は7月の決定会合で物価動向を再検証する。雨宮氏は「もう一度物価が上がりにくい理由、
物価観の形成の仕方などを点検する。物価動向について何が起きているのかをきちんと詰める」と語った。

 4月に日銀は物価見通しから「2%」の達成時期を削除した。
最近の物価上昇率はゼロ%台で、達成は困難との見方が多いが、雨宮氏は、先進国は2%を目標としており、
「同じような物価目標を持って上昇が実現していると、
中長期的に為替の安定につながる」と2%目標を維持する考えを示した。

 また、「当初思っていたより(達成に)時間はかかっている」としたうえで、
「デフレが長く続いたので、(物価が上がらないという)物価観を変えなくてはならない。
『できるだけ早期に』という約束は必要だ」と強調した。

 長引く超低金利で、銀行の収益悪化などの「副作用」も懸念される。
雨宮氏は「副作用が緩和のメリットをひっくり返す大きさにはなっていない」としつつ、
「(副作用が)知らないうちにたまっていることもあるので、注意深く見ていく必要がある」とした。

 今後の緩和策の修正については、「物価目標を安定的に達成するために必要なら、調整はあり得るし、
排除してはいけないと思う」と述べ、修正するかは「物価や経済の状況、副作用の総合判断」とした。

 雨宮氏は日銀生え抜きで、2013年に黒田東彦(はるひこ)総裁が就任して以来、
企画担当理事として金融政策を立案してきた。黒田氏の信任が厚い「知恵袋」として、
マイナス金利や長期金利操作など新政策の導入を手がけた。

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朝日新聞デジタル
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